日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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山口県岩国地域の高校生徒におけるアレルギー性鼻炎有病率の地理的変動
*村中 亮夫中谷 友樹吉岡 達生
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p. 23

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抄録

I はじめに
 疾病のあり方は様々な環境因子によって規定されるため,死亡率・有病率の地理的な変動を通して,疾病を生み出す地理的な背景が明らかにされることも多い.本研究は,アレルギー性鼻炎の地理的変動を検討し,この地理的変動を規定する仕組みを検討するものである.
 アレルギー性鼻炎の症状は,ハウスダストやダニ,花粉などのアレルゲンにより引き起こされる.そして,症状の度合いは,アレルゲンへの暴露に加えて,個人の体質や居住環境,生活習慣によって左右される.このような個人の体質や居住環境・生活習慣が地理的に異なることより,有病率の差が地理的に変動する可能性が指摘できる.このようなアレルギー症の多発は,食生活や大気汚染を含む生活空間の変化を背景としている点もしばしば指摘され,生活のあり方や生活空間の変貌にみられる地理的な違いも考慮せねばならない.
 これまで,アンケート調査を用いたアレルギー性鼻炎に関する疫学研究から,アレルギー性鼻炎有病率の有意な都市-農村格差が明らかにされてきた.そして,アレルギー性鼻炎の有病率が,(1)住居環境・大気汚染などの外的因子,(2)遺伝・食生活などの内的因子によって規定されていることが示唆されてきた.
 しかし,アンケート調査による有病率は,より信頼性の高い視診による結果と比較して高くなり,評価精度に関する問題が指摘されている.また,これまでの研究では居住地を基準とした有病率格差のみが検討されてきたが,発達した交通環境に基づいた生活環境の広がりを考慮すると,このような地理的位置の参照方法の再考も必要であろう.
 そこで本研究では,(1)学校の耳鼻科検診を利用し,視診による精度の高い重症度の評価データを得るばかりでなく,(2)生活行動の広がりを考慮して,居住地ならびに通学先を基準とした有病率の地理的な格差およびその背景を検討することにした.
II 研究対象地域の概観と調査の概要
 調査対象は,市部に立地する高等学校1校と郡部に立地する高等学校2校各校の,2002年度第1・3学年在籍生徒である.本研究では問診および視診を,調査日時点に各高校に在学する生徒に対して行った.検診時に問診表を回収できた生徒480名分のデータを分析の対象とした.なお,鼻アレルギーの重症度の判定は,ライフサイエンス・メディカ編(1993)『アレルギー疾患治療ガイドライン』中,「鼻アレルギー(含 花粉症)の診断と治療」に基づいた.
 調査は2002年5月17_から_18・30日に実施された.2002年の岩国地域におけるスギ花粉の飛散時期は1月上旬から4月上旬,ヒノキ科花粉の飛散時期はおおむね3月中旬から4月中旬であり,データ収集日はおおむねスギ花粉およびヒノキ科花粉の飛散期間と重なっておらず,花粉飛散が重症度へ与える影響は無視しえるものと考えられる.

III 結果・考察
 鼻アレルギー重症度の診察の結果,市部校の生徒298名中,無症状は113名,軽症90名,中等症48名,重症47名,郡部校の生徒182名中,無症状は96名,軽症36名,中等症27名,重症23名であった.そして,Mann-Whitney検定によると,市部校での生徒は郡部校の生徒に比較して,重症度が高いことがわかった(モンテカルロp値≒0.01).この結果は,これまでにも報告されてきた有病率の都市-農村格差と対応しているようにみえる.
 他方,居住地を基準として,都市-農村格差を検討すべく,(1)居住地が市部か郡部か,(2)居住地がDID地区か否か,という区分でアレルギー性鼻炎の重症度を比較したが,有意な差は認められなかった.すなわち,本研究からは,アレルギー性鼻炎の重症度について,高等学校の生徒の居住地では,都市-農村格差を見出すことは出来ず,むしろ1日の大半を過ごす学校の所在地に基づく差が見出された.
 ただし,以上の結果は,問診によって得られる個人・世帯の属性の違いをコントロールした結果ではないそのため、喫煙やペットの有無など生活習慣や居住環境にみられる地域差によって、有病率の地域差が規定されているか否かは明らかでない.現在,個人・世帯の条件と居住地・通学先の違いを同時に考慮した分析作業を進め,アレルギー性鼻炎の地理的変動の背景を,生活空間のあり方を含めて検討している.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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