日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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北アナトリア断層・1944年地震断層におけるスリップヒストリー
*近藤 久雄粟田 泰夫Emre OmerDogan AhmetOzalp SelimYildirim CengizOzaksoy VolkanTokay Fatma奥村 晃史
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p. 35

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抄録
1. はじめに トルコ・北アナトリア断層は,長さ約1200kmに及ぶ横ずれ型プレート境界断層で,20世紀を含む歴史時代に連鎖的な地震発生のサイクルを繰り返してきたことが知られている.そのため,長大な活断層のセグメント区分やセグメントの相互作用,複数の地震サイクルにわたる断層活動の繰り返し様式を明らかにする上で,重要な活断層の1つである.特に,1944年にMs7.3の大地震を発生させたBolu-Gerede地震断層(以下,1944年地震断層)では, 西暦1668年大地震の震源断層の一部として活動し,また10-11世紀には1944地震断層の別々の区間が活動したという歴史記録が存在する(例えば,Ambraseys,1970).したがって,1944年地震断層は,複数の地震サイクルで連動するセグメントの組み合わせが変化する際の断層活動様式を検討するために,最適な研究対象である.以下では,活断層研究センター・トルコ鉱物資源調査開発総局が1944年地震断層を対象として実施してきた地形・地質学,古地震学的調査のうち,Geredeセグメントにおける断層変位の繰り返しを中心に述べる.2. 1944地震断層のセグメント区分と累積変位量 1944年地震断層は,北アナトリア断層の中西部区間に位置し,長さ約180km,走向N70-80Eで直線的に延びる(近藤ほか,2003).詳細な空中写真判読,野外での変位地形の確認と計測,地震断層に関する地元住民への聞き取りの結果,地震断層は,1944年地震の変位量分布,断層線の不連続,歴史記録といった複数の指標を基準に,5つの活動セグメント(McCalpin,1996)に区分することができる. 1944 年地震断層の中央に位置し,最大規模の変位量5-6mを記録したGeredeセグメントにおいて,累積的な横ずれ変位地形の計測をおこなった.その結果,8地点で6-24mの変位量が計測でき,いずれも近傍で計測された1944年変位量の2倍から4倍を示すことが明らかとなった.これは,計測地点数が少ないものの,最近4回の地震サイクルを通じて同程度の変位量が断層活動毎に繰り返された(固有変位量の存在)可能性を示している.3. Geredeセグメント・Demir Tepe地点のトレンチ調査 さらに,上記の可能性を検討するため,断層活動時期と単位変位量を同時に復元する3Dトレンチ調査を実施した.調査地では,扇状地性段丘面を切る低断層崖,断層線の右ステップに伴う引張性の凹地が形成されている.調査地西部の並木列と凹地を横断する2本のガリーを基準として,それぞれ4.0-5.0mと9.2±1.3m,9.7±1.2mの右横ずれ変位量が計測できる.断層活動時期を明らかにするため,凹地を跨ぎ断層に直交するトレンチを3本,変位量を復元するため,断層に平行する8本のトレンチを掘削した. この結果,4つの地震イベント層準を認定でき,それぞれに対応する断層変位量が復元できた.各イベントの発生年代は,年代測定結果と約2km東方のトレンチ調査結果(奥村ほか,2003)および歴史記録を総合して,新しいものから,西暦1944年,1668年,13-15世紀,1050年の地震に対応すると考えられる.各イベントに伴う横ずれ変位量は,イベント層準と変位基準の関係に基づき,4.0-5.0m(並木列),4.8±1.5m(ガリー),5.3±2.3m(埋没チャネル),4.7±0.9m(埋没チャネル)と推定された.4. まとめ このように,Geredeセグメントでは,最近4回の断層活動イベント毎に同程度の右横ずれ変位が繰り返されている可能性が高い. 同セグメントは,1944年地震では180kmの地震断層の一部として活動し, 1668年地震では長さ約600kmの長大な地震断層の一部として(例えば,Ambraseys and Finkel, 1988),また1035年地震では長さ数十kmの短い区間として活動した(Ambraseys,1970)可能性が高い.したがって,一回の地震に伴って連動破壊したセグメントの総延長(地震断層長)が数倍の範囲で大きく変動したにも関わらず,少なくともGeredeセグメントでは固有変位量が繰り返されてきたと考えられる.
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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