日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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サービス輸出を指向するインドIT産業の成長と大都市立地
*鍬塚 賢太郎
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p. 40

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抄録
I.はじめに インドのIT 産業は,アメリカ向けITサービス輸出を主軸として成長してきた。こうしたインドのIT産業について,本報告では次の点に着目しながら検討したい。第1は,1990年代後半以降のインドの貿易構造の変化と,そこにIT産業の果たす役割についてである。第2は,ITサービス輸出がインド大都市に与えるインパクトとその意義についてである。 都市を拠点とするサービス貿易については,もっぱら先進国間のそれに関心が注がれることが多かった。しかしながら,情報通信技術の発達により,これまでの想定とは異なるサービス輸出が拡大している。経済のグローバル化と都市への産業立地との関係についてさらに議論を深めていくためにも,インド大都市に着目する意義は小さくない。II.世界におけるインドのサービス輸出の特徴 2002年におけるモノとサービスの全世界輸出額は約8兆ドルであり,モノの貿易額がサービスのそれを圧倒する。とはいえ,サービス貿易の割合は年々拡大しており,2002年において全世界輸出額の約20%を占める(WTOによる)。 サービス貿易は「輸送サービス」,「旅行サービス」,「その他サービス」に大きく区分される。近年,「その他サービス」の成長が著しく2002 年には世界のサービス輸出の47%を占めるまで拡大している。ソフトウェア・サービスや,情報通信技術を活用したコールセンター業務などの業務受託サービスといったITサービスもここに含まれる。インドのサービス貿易は,「その他サービス」輸出の拡大によって特徴づけられる。インドの当該サービス輸出額は世界の2.4%(約180億ドル)を占めるに過ぎない。しかしながら,輸出額上位15位中,香港(第9位),シンガポール(第15位)の他は先進国で占められているなか,インドは世界第13位の輸出国となっている。加えて,インドの当該サービス輸出は1990年代後半,年平均41%の成長率を示しており,他の国や地域を圧倒する。インドが,当該サービス輸出の世界的な成長センターとなっていることを確認できる。III.インドのサービス輸出とIT産業の成長 インドの貿易構造を考える上で,サービス輸出の重要性を無視することはできない。というのも,インドのモノとサービスの全輸出額に占めるサービスの割合をみると,1996年は18%でしかなかった。それが2002年には32%にまで拡大する。また,モノの貿易収支が継続的に赤字であるのに対し,サービス収支は2000年より黒字に転換する(IMFによる)。 インドからのサービス輸出の拡大を促しているのがアメリカを主要な需要先として成長してきたIT産業である。当初インドのITサービス輸出は,国境を越えた技術者の移動を伴うものであった。しかし,インドへの多国籍企業によるソフトウェア開発拠点の設立を契機として,情報通信技術を活用した越境的な取引によるサービス輸出が活発化する。また,インド企業も当該産業に多数参入し成長を遂げていく。さらに,こうした輸出形態は業務受託サービスの分野にも拡張される。インドのIT産業は,人の移動を伴わない越境的な取引によるサービス輸出へと輸出形態をシフトさせながら成長を遂げている。IV.IT産業の大都市立地 インドにおいてITサービス輸出の拠点となっているのが,デリー首都圏やバンガロール,ムンバイなどの大都市である。輸出されるITサービスの内容には違いがあるものの,多国籍企業だけでなく海外に複数の事業所を配置するインド企業も,インド大都市にソフトウェア開発センターやコールセンターといった拠点を配置する。また,郊外部には当該産業の立地を見込んだオフィスパークの整備が進展している。さらに,IT産業の成長はソフトウェア技術者やオペレータに対する強い需要とともに,これまでにない就業形態をインド大都市に生みだしている。 輸出指向型サービス産業として大都市を拠点としながら成長を遂げるインドのIT産業は,これまでにないインパクトをインド大都市に及ぼしている。そのプロセスは,長らく閉鎖的な経済体制のもとに置かれていたインド大都市が,サービス輸出という新たな回路を通じて経済のグローバル化の過程と深く結びつくプロセスとも考えることができる。
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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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