日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会秋季学術大会
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佐渡島新穂地区における環境保全型稲作の導入と定着への課題
*大竹 伸郎
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p. 41

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抄録

はじめに 環境保全への関心が高まりつつある近年、新潟県佐渡島では、「トキを軸にした島作り」計画を策定し、特別天然記念物であるトキの野生復帰を進めている。この計画は、トキの野生復帰を実現することで、近年減少傾向にある観光客の増加をはかり、佐渡島の産業を活性化することを目的にしている。 現在、トキの野生復帰をすすめる取り組みとしては、観光業や環境教育や農業などが中心となっている。観光業では、トキが放鳥される際の餌場を確保するため、県内外の市民が参加し、耕作放棄された棚田をビオトープとして再生するエコツーリズムが行われている。環境教育では島内の小中学校で「生き物調べ」、「トキと環境」など総合学習なかで取り扱われている。農業ではトキの放鳥予定地である佐渡島の旧新穂村を中心に、米の「減農薬減化学肥料栽培」や「無農薬有機栽培」といった環境保全型稲作が行われている。新穂における環境保全型稲作は、緒についたばかりであり、以前から独自に無農薬栽培に取り組み、栽培技術を確立している数軒の農家を除けば、経営水田に占める環境保全型稲作の割合が小さい農家が多い。 しかし、食の安全性に対する関心も高まっている現在、これらの取り組みを定着させることは、生産調整や米価の低迷等によって、近年、存続が困難に成りつつある日本の水田稲作を存続させるための一つの方策となり得るものである。さらに、2004年度から施行された「改正食糧法」により、米の販売実績に応じて、生産量が都道府県に割り当てられるようになったことを考えれば、今後付加価値の高い「有機栽培米」や「特別栽培米」の生産が増加していくことが予想される。研究の目的 本研究では、佐渡島の環境保全型稲作の中核地域である新穂村を事例に、環境保全型稲作の現状や展開過程、さらに定着のための課題を明らかにすることを目的としている。実際の調査にあたっては、新穂村で環境保全型稲作を行っている16戸の水田稲作農家と、7戸で形成されている農業法人、および15戸で構成されている農業生産組合に対して聞き取り調査を行った。 環境保全型稲作を定着させるための課題新穂村での調査の結果、環境保全型農業の定着を困難にしている要因として次の4点が明らかになった。_丸1_環境保全型稲作を行いたいと考えても、水田の場所が、慣行栽培による空散地域であるため新規の参入が困難であること。また労働力が不足するなかで、除草作業への労働力配分が大きいことも定着・拡大に大きな障害となっている。_丸2_離島である佐渡島では、輸送にフェリー代金が必要である。そのためJAでは、トラック1台分以上の生産量を確保出来ない場合は、農家から米を購入しないため、農家は独自の販売網を確保しなければならない。_丸3_栽培農家の多くは、個別の販売網を確保するためにNPOと提携しているが、これらのNPOでは独自の栽培方法をとっているため、販売を希望する農家は、これらの技術指導を受ける必要がある。しかし、この技術指導料金が高額であり栽培農家の大きな負担となっている。_丸4_トキの野生復帰プログラムと島作りや経済・産業の将来方針のプログラムとの整合性が必ずしもとれていない。そのために環境保全型稲作の展開がトキの野生復帰プログラムの中に明確に位置づけられていない。

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