抄録
1.はじめに 1995年以降、活断層調査が急速に進められ、トレンチ調査や反射法地震探査の数は飛躍的に増加した。しかしそれらのデータは「点」の情報に過ぎず、一向に個々の活断層の動的なモデルは見えてこない。2004年度末に地震動予測地図が完成し、基盤的活断層調査が一区切りを迎えるにあたり、個々の断層の「地震時挙動の全体像を把握するために本質的に重要な調査手法」を改めて考え直す時期に至っている。 この場合、(1)どこから破壊が始まって、(2)どのような変位量分布が断層上に現れ、(3)どの範囲が「活動区間」となるか、の3つが重要となる。しかし、これまではトレンチ調査を優先させすぎたせいもあり、(1)_から_(3)を考えるために十分なデータが不足した。これら(少なくとも(3))を確定しないままに「地震発生時期」だけを予測しようとしても、次に起こる事象如何によって発生時期の推定論理も異なるのだから、現状の評価には問題がある。また、以下に述べるように発生確率の過小評価を招き、防災上の問題も大きい。この問題を改善するため、そもそも最初にやるべき基礎的調査を充実させた上で、再評価する必要がある。 (1)については中田ほか(1998)の手法が現状では唯一の推定方法であり、その適用限界の検討が課題となる。(2)と(3)はセットで、地震時の強震動推定の重要なデータを提示すると考えられている。(1)_から_(3)が完全に理解できれば、活断層研究が地震防災に大きく貢献できることになるが、現状では楽観的な見通しを述べることには慎重になるべきであり、現状評価を少しずつ改善させるという位置づけが適当である。 藤原(2004)によれば、現状の活断層評価の結果として提示された今後の地震発生確率では過去200年間の地震発生数を説明できず、確率は大幅に過小評価になっている。この指摘を重く受け止めて改善策を検討しないといけない。本稿では、その改善策として、地点ごとで累積変位量と平均変位速度を精査し、その分布を明らかにすることの重要性を述べる。