抄録
1.はじめに関東平野では,海洋酸素同位体層序(Marine oxygen Isotope Stage; MIS)5以降の古地理や古環境について,多くの研究が蓄積されてきた.しかし,中期更新世に繰り返し生じた海進・海退が関東平野内陸部の平野環境へ与えた影響はよく解っていない(図1).本地域の海進期の古地理については,これまで松島ほか(2004)より,MIS9と11の大規模な海進により埼玉県吹上町付近まで海水準が上昇したことが示唆されている.また海退期には河川勾配が急になり,上流から砂礫が供給され,運搬・堆積した環境が堆積物にも反映されていると考えられる.本研究では,関東平野内陸部の吹上・行田地域において,産業技術総合研究所や埼玉県によって掘削された複数の大深度ボーリングコアを解析し,同地域における中期更新世以降の古地理変遷を明らかにするとともに,氷期―間氷期の海水準変動がローカルな堆積平野の形成に与えてきた影響を復元することを目的とする.2.方法 2-1 1982年に埼玉県の地盤沈下観測所地質調査によって掘削された行田コア(SA-GD-1; 深度610.70m)を,深度250mまで1/25スケールで岩相記載を行った. 2-2 氷河性海水準変動に準拠したSA-GD-1とGS-FK-1(吹上コア)の層序対比を行った. 2-3 SA-GD-1とGS-FK-1の各礫層に含まれる礫径・礫種を測定し,両コア間の礫種分析結果を比較した.3.結果と考察3-1 SA-GD-1の岩相記載 SA-GD-1コアは細粒層と礫層の互層で構成され,深度150_から_200mのシルト層からは貝化石やアカガシ亜属の花粉が産出されることから,大阪平野やGS-FK-1の例と比較してMIS11に対比される.最上位の細粒層にはローム層の上に沖積層が不整合に覆っているため,最終氷期の基底礫層が存在しない.細粒層と礫層の組み合わせから海進―海退サイクルと対応した堆積ユニットに区分できる.またMIS11に対比した層準とその上位のMIS9に対比した貝化石が産出する層準は海成層と判断でき,MIS11と9がそれ以降の海進と比較して大規模であるということを裏付ける証拠となった.3-2 氷河性海水準変動に準拠したSA-GD-1とGS-FK-1の層序対比 GS-FK-1コアの解析から,氷河性海水準変動に準拠したMISとコアの岩相層序とを対比し,礫層の基底をシーケンス境界とする5つの堆積ユニット(U1_から_U5)に区分した.その結果,沖積層からMIS11までわたると推定でき,過去50万年間における関東平野中央部の標準地下層序を確立することに概ね成功した(松島ほか,2004).その標準層序を基準として,SA-GD-1コアとの層序対比を試みた.両コアともU5のMIS11とU4の海成層(MIS9)に対比される海成層が鍵になり,上位の層準もU1とU2の境界となる礫層がSA-GD-1で見られない以外は,MISに基づく対比が可能である(図2).MIS9と11の大規模な海進は吹上・行田両地域にまで及んだことが初めて明らかになった.3-3 SA-GD-1とGS-FK-1間の礫種分析結果の比較GS-FK-1とSA-GD-1の各基底礫層における礫種組成を比較・考察した(図2).GS-FK-1の礫層は,ラハール堆積物を除いてほとんどが関東山地起源の砂岩とチャートで構成される.GS-FK-1ではU1基底礫層にのみ安山岩が含まれ,SA-GD-1は深度48m以深においてほとんどの礫層に安山岩が含まれているが,これは礫の供給源が赤城・榛名山を上流にもつ利根川流域であった可能性が考えられる.これまで本地域において礫種による流域の考察を行った研究は少ないが,礫種の違いが荒川・利根川の河川争奪等の流路変遷や上流域の赤城山等の火山からの礫供給量の大小を示唆すると考えられる.
