抄録
1.研究の概要
前報(2004年日本地理学会春季学術大会)では,1km×1kmのグリッドにひとつのタンクを置くグリッドタンクモデル(分散型タンクモデル)を採用し,グリッドごとに気候値メッシュデータ(気象庁)から算出される流出量を対象流域単位で集計して,月単位で河川流量データと照らし合わせを行い,その差異が最小になるようにモデルの実行を繰り返しながら、グリッドタンクモデルのパラメータの最適値を求めた.また,そのパラメータを用いて流域水収支の推定を行った.結果として,おおむね精度良く月流出量をシミュレートすることができ、水収支の推定も妥当と考えられた.
前報では,流出に関わるタンクのパラメータは対象流域ごとに設定したが,サブモデルの積雪・融雪にかかわるパラメータは流域共通とした.本研究では,このパラメータを対象流域ごとに最適値として設定することで、流域水収支モデルの精度の向上を試みた.
2.流域水収支モデルについて
前報で報告したグリッドタンクモデルと,そのサブモデルである積雪・融雪モデルを引き続き使用した.このグリッドタンクモデルには,飽和,中間,基底の3つの流出口を有しており,そのうち,中間,基底流出口には流出率が設定されている.さらに,タンクの上限から底までを第1容量,中間流出口から底までを第2容量と区別した.この流出量に関わるパラメータは,第1,第2容量と中間,基底流出率の4つである.
サブモデルの積雪・融雪モデルは,気温によってのみ影響されるという単純なもので,パラメータは月値としての融雪係数と降雨・降雪判別気温である.
3.流域水収支モデルのパラメータ推定法
パラメータの推定方法は,前報での手順と同じである.すなわちグリッドタンクモデルのパラメータの最適値探索に加えて、融雪係数と降雪・融雪判別気温の探索を組み合わせて行った.
4.まとめ
全てのパラメータについて流域ごとに異なる最適値を設定したことによって,前報よりも流域水収支の精度が向上した.前報で年単位,融雪期(3_から_6月)の実測流量値とモデル出力値の差を比較すると,実測流量値の方がモデル出力値より多いことが判明していた.この原因として降雪の補足率が過小であることによることを報告したが,さらに全てのパラメータを流域ごとに設定したことにより,その傾向はより顕著に表れた.
1km解像度のDEMを用いて流域の平均標高を集計し,実測流量値とモデル出力値の差との関係をみてみると(fig.1),平均標高が高いほど融雪期における水収支の差が大きくなった.比較的標高の高い地域においては(たぶん風が強いので)雪としての降水量の補足率が低いことに加え,気候値メッシュデータそのものの降水量についての高度補正が不十分であることも予想される.
