抄録
1. 研究の背景と目的調査対象地である鹿児島県屋久島は,1993年に世界自然遺産に登録された.この登録理由のなかに,通称ヤクスギと呼ばれる高齢な天然スギ(Cryptomeria japonica)の巨木林が挙げられている.一方で,ヤクスギは従来から木材資源として利用されており,現在も利用が継続している.
そこで本研究は,ヤクスギの利用主体である加工業者に焦点をあて,保護の対象となっている資源の利用現状について分析することを目的とする.調査内容として,各業者における材の購入量と入手経路・経営内容・来歴などの聞き取り,加工組合におけるデータ収集を行った.2. ヤクスギ利用の現状現在利用されているヤクスギは,江戸時代に伐採された木の根株や倒木部分であり,通称「土埋木」と呼ばれている.ヤクスギ立木の伐採が禁止された1983年以降は,土埋木のみが利用可能であり,主に家具や工芸品に加工されている.土埋木の搬出から販売までは,基本的には屋久島森林管理署の管轄下におかれている.販売方法は,随意契約方式と,一般入札の2つがある.随意契約は,地場産業の育成が目的であり,業者が形成している加工組合にのみ販売される.3. 加工業者の分析 屋久島において土埋木を購入する業者数は1979年の42社をピークに減少を続けている.1979年と2002年における立地の比較より,宮之浦地区の減少と島の東部の安房・春牧地区への集中が分かる.この変化は,土埋木生産量の減少,宮之浦貯木場の閉鎖,観光ルートの確立が要因であると考える.2002年現在の業者数は32社である.そのうち全体の80%にあたる25社が組合へ加盟しており,平均30年加工業に従事していた.代表者の80%は島内出身であった.これは,組合加盟の業者が土埋木の本格的な利用開始時に創業し,随意契約により毎年一定量の材を確保していることを示唆する.次に,組合加盟の業者を店舗の有無と材の購入量から4つに細分化し,それぞれのグループの特徴分析を行った.その結果,店舗を持つ業者は観光客を主な販売対象とするため,必ず県道沿いに立地していた.また,材の購入量に応じて観光客の属性を個人_-_団体で棲み分ける傾向があった.店舗を持たない業者のうち,材の購入量が少ない業者は小物中心に製作し,卸しを専門にしていた.購入量が多い業者は良材を入札で購入し,テーブルのような大物家具やツボといった高価な商品を主に製作し,島外を中心に顧客を抱えていた.一方,組合へ加盟していない業者は,1990年代より見られ始めた.1社を除いて島外からの移住者であり,組合加盟の業者が立地していない,集落の外縁部などに位置していた.また,入札材や流木を用いたり,土埋木以外の材料も用いたりして個性的な商品を作っていた.これらは,既存の業者との差別化を図るためである.4. まとめ土埋木の加工業は,その素材の良さと屋久島・ヤクスギという付加価値を活かし,観光とも関連して成立している産業である.また,材の入手・販売対象・製品の製造において工夫をすることで,土埋木の加工業を継続していた.加工の技術や人とのつながりが,これらの背景にはあると考えられる.
