抄録
このシンポジウムは、2003年春期の公開シンポジウム「災害ハザードマップと地理学_-_なぜ今ハザードマップか」に引き続くものである。ハザードマップづくりに地理学が重要な役割を担うことは先のシンポジウムでも確認されたところであるが、今回は地震災害を対象として、作り手と使い手の立場から地震災害に対するハザードマップのあり方に焦点をあてながら、活断層研究の成果をハザードマップにどのように活かすことができるのか、地域社会にとって被害軽減に活用できるハザードマップとはどのようなものなのか、をめぐって討論し、地理学が被害軽減にどのように関わりうるのかを考えようという企画である。そして災害対応委員会(シンポジウムオーガナイザー:宇根 寛・遠藤邦彦・岡田篤正・鈴木康弘・中林一樹・村山良之(アイウ順))としては、このシンポジウムの成果をふまえて、被害軽減に役立つハザードマップとその活用法に関する地理学からの提言をまとめ、公表していくことを目標としたい。
阪神・淡路大震災以降、学界では地震のハザードマップは地震学はもちろん地理学・地学の知見を含めて展開してきているものの課題もある。他方、社会的には地震防災意識の風化も危惧されており、災害対策実施主体の基本である自治体と地域社会がハザードマップを活用して対策の向上と実現を図っていく必要がある。第三部の討論を通して、オーガナイザーは、日本地理学会災害対応委員会からの提言を提案したいと考えている。
<被害軽減に役立つ地震ハザードマップにあり方に関する提言(案)>
(1)活断層の危険性について改めて提起し、活動層情報の開示と被害軽減のための活断層地震への対応対策構築を急ぐべきである。各地域の基本構想・総合計画や都市計画の基本方針などにも反映されるよう、活断層情報の活用方策を構築していくべきである。
とくに、活断層の位置が一定の精度で確定できる場合には、都市づくりに関して断層位置を提示することが市街地開発や重要施設配置など都市づくりに重要な意義を持つし、それによる被害の発生を想定した災害対応対策を講じることにも有意義であろう。
(2)被害軽減対策の推進には、地震のハザードマップから、地域社会において具体的な地震災害イメージを描くことができなければならない。そのためには、土地条件図や地形分類図を始めGISを活用した、各地域の地理的条件の開示とハザードマップに関する学習システムを開発する必要がある。
(3)被害軽減に向けての地震防災対策は、長期的かつ継続的に取り組むことが重要である。そのためには、小学校高学年、中学校、高等学校、さらに大学および地域の生涯学習の一環として、多世代にわたる防災学習システムが重要となる。地理学界としては、そのための教材作成や、総合学習など学校教育において担当する教員および地方自治体で災害対策・防災教育・地域づくり等を担当する職員・マスコミ関係者への講習会、さらに地域居住者への学習会や生涯学習など活動を共催したり支援することに積極的に関わるべきであると考える。
(4)上記を実現するために、内閣府、文部科学省、国土交通省、都道府県および同教育委員会、さらに関連諸学会(地震学会、地盤工学会、地質学会、第四紀学会、自然災害学会、地域安全学会、災害情報学会、都市計画学会、建築学会、土木学会等)など、被害軽減のための地震災害対策の構築やその実践に関わる関連主体への問題提起と協働の取り組みを呼びかける。