日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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活断層研究と地震防災
現状と問題
*松田 時彦
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p. 114

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抄録
1. はじめに
 地表調査でわかる活断層は、地殻上部の大規模地震が地層や地形の上に遺した跡であり、その研究成果は今や地震被害の軽減を考えるときの必要不可欠な情報となっている。そのような理解は1995年の阪神淡路大震災を契機に突如社会的なものになった。それは研究者にとって喜ばしいことかもしれないが、その反面、それがあまりに急速であったために情報の伝達や成果の適用に関して不安を抱かせる面も生じたし、活断層研究自体の未熟を痛感させもした。
 地震防災のために求められている活断層に関する情報は _丸1_活断層から発生する大地震の諸性質の予測(場所・規模・時期・発生確率)、_丸2_地震動予測のための断層運動の実態、_丸3_断層運動に伴う土地のずれ・変形、破壊など地盤変化の性質、などに分けられる それぞれについて活断層の成果の現状とその問題点を述べる。

2. 活断層からの大地震の予測
活断層の位置は将来の大地震の発生「場所」である。そして活断層の形態的大きさ(主に長さ)は大地震の最大「規模」の推定に役立っている。活断層の活動は周期的である(固有地震説)として、野外で得られる平均的活動間隔と最新活動時期とから次の大地震の「時期」、少なくともその時期の切迫度やある期間にそれが発生する確率を推定することができる。
 阪神淡路大震災以後日本の主な活断層帯についてそれから発生する地震の予測が政府機関(地震調査研究推進本部)によって行われ公表されている。さらにその予測に基づいて全国をカバ_-_する地震動予測地図が作られつつある。
 そのような公的な断層評価内容の信頼度はひとえにその断層に対して行われた野外調査結果の質と量にかかっている。場所・規模・時期の予測のうち「場所」については最も多くの資料があり信頼度が他に比べて高いが、「時期」やその発生確率値は、極端に言えば現状ではトレンチ掘削地点が一つ増えただけで大変動するほど不安定なものである。今後の調査研究に望むことは、月並みかもしれないが活断層の野外調査の推進である。それが実行できるような研究と社会の環境作りが必要である。 

3. 各地域・各地点での地震動の予測
任意の点での地震動の予測の詳細化のためには上記の地震発生予測の諸要素のほかに断層面上での「ずれ」に関する予測情報(ずれの開始点・向き・速さ・量の分布、アスペリティの性質など)が必要である。それに役立つ資料を増やすべく地形地質の研究者は新しい視点をもつて研究することが要請される。また地域の地盤構造や地質構造への適切な地質学的助言も求められている。

4. 断層付近の地表のずれ・変形の予測
 断層は地震時に動いて土地をずらしたり隆起・沈降して、断層直上の構造物基盤・ライフラインの破壊や水位の相対的変化による港湾施設・灌漑施設などへの「地殻変動災害」をもたらす。地震動災害に比べて被災の面積は小さいにしても、断層直上での土地の破壊・食い違いは避け難く、被害の深刻さは地震動災害に劣らない。にもかかわらずこのような地殻変動災害はこれまでの公的機関での災害対策の中で欠落しているようにみえる(一部の企業を別にして)。私的にも自分の住宅環境の中で活断層の有無・詳細通過位置の情報は住民にとって現実的な要望であり、情報の信頼度・詳細度も現在の規模・時期予測情報のそれよりも高い。活断層の「場所」情報を、たとえば街路地図のような大縮尺の地図で社会に提供すべきである。そのような活断層の詳細位置の地図化と社会への活断層位置の周知のためにもある種の「活断層法」の早期実現が望ましい。

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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