抄録
近年,都市における水辺空間の整備においては,住環境の質的向上や稠密な都市空間を緩和するためのオープンスペースとして事業が展開されている.こうした水辺空間に関する既往研究では,居住者や来訪者の意識構造の把握や利用行動についての検討が行われてきた.しかし,それらは主として水辺に対する「快適性」の認知構造を明らかにしているものの,その多くは意識把握の段階にとどまっており,人々の評価や意向を今後の整備計画にどのように反映させていくかという視点での検討は少ないといえる.また,1995年の阪神・淡路大震災以降,都市におけるオープンスペースの重要性が改めて注目されたが,水辺における災害時を想定した利用可能性の検討については現在までのところ不充分であることが指摘できる.
本研究で取り扱う都市域での水辺空間は日常時には「快適性寄与空間」として,災害時には「防災・減災空間」として機能することが想定される.同時にリスク(都市水害等)を併存する空間であることから,「水辺」を単体として扱うのではなく,水辺を含む地域全体をひとつのまとまった空間として捉え,住環境の中で位置付けていく必要がある.このように水辺の空間的な機能や効果を活かした整備のあり方や防災情報のあり方を,居住者の評価を踏まえて検討を行うことは重要な課題であると考えられる.本研究では,都市域での水辺空間を既往研究の多くで指摘されてきた快適性寄与機能にとどまらず,防災・減災機能を含む多機能空間としての整備のあり方を考察する.
_II_.調査方法
本研究では,水辺における防災・減災機能性および災害リスクを検討する観点から東京都により公表・公開されている「総合地域危険度」(5段階)別に東京都特別区内の河川,親水公園等に隣接する15町丁目の居住者を対象としたアンケート調査を行った.調査は留め置き郵送回収により実施し,1026通(回収率17.6%)の回答を得た.分析にあたってはまず,居住者の都市災害リスクの「主観的」認知評価と,行政等により公開されている「客観的」指標の一致・乖離に関する規定要因および関連性を考察し,これを踏まえて水辺空間の防災・減災機能性を検討する.
_III_.考察と課題
都市における災害発生リスクにおいては地震,水害とも加齢に伴いリスク認知が低減する傾向が見られた(図1).しかし地震は水害よりも全体的にリスク認知が高い.これは発災の突発性(未知性)や被害程度の大きさ(恐怖感),事前の情報量に起因するものと考えられる.
現在,全国的に災害に備えて危険箇所や避難場所を掲載した「ハザードマップ」が整備されつつある.しかし本調査では,その用語について全サンプル中48.1%が非認知であり,今後は都市における災害リスクマネジメントにおいて,「情報提供」によるリスク認知の向上を進め,被害軽減を図る必要性が示唆された.しかし,水辺空間における防災・減災機能性については,その効果が「やや有る」「よく有る」をあわせて概ね約半数が評価していることから,新たなハードの整備だけでなく,既存の水辺空間における潜在的利用可能性が示唆された(図2).想定外の甚大な被害をもたらす近年の都市災害においてゼロリスクの達成は現実的に困難であり,今後は,居住者の災害リスクに関する受容認識と事前行動について分析を行った上で,リスク認知の向上や防災情報提供を施策的に組み込んでいく方法論を検討していく必要がある.