抄録
本報告は、本学会における別報告「Webサイトにおける「地理写真教室」の開発」(妹尾、白須、高橋、水上)【1】で紹介した「石井地理写真塾」(石井實氏の地理写真と知見を活用した教育サイト)の教材としての技術的工夫点に関する報告である。教育的効果を高めるために多くの工夫を行なったが、ここでは五点について紹介を行なう。
http://web.sfc.keio.ac.jp/~s02836tm/geographic-photo
1. クイズ形式の採用による学習意欲の喚起
地理写真を活用した教育の実践の中で「写真からどのような地理的事象が読めるか」という問いかけを行なうことは重要である。例えば、桜井(1999)が指摘しているように【2】、地理的な見方・考え方として「そこはどんなところか、どうなっているのか、なぜそこにあるのかを考えること」を効果的に導く。本教材では小学校高学年_から_中学生らの興味を喚起し、彼らの自発的・積極的な学習を促すため、問いかけとその解答を組み合わせた「クイズ形式」を採用した。これは、地理の学習に対する敷居を下げ、楽しみながら学ぶことを狙いとしたものである。
2. 情報の段階的提示による学習テンポのコントロール
しかしながら、「クイズ形式」は、同時に「学習者らが自主的に思考せずに次から次へとクリックして答えを見に行く」ことも可能にする。そこで、問いかけに対する解答をすぐに提示するのではなく、問いかけと解答との間に学習者が考える時間を持つきっかけを工夫した。具体的には「着眼点」や「キーワード」等を設問と解答との間に置くことにより、(学習者の思考の流れを損なわない程度に)学習テンポをコントロールするようにした。
3. 情報の埋め込みによる多様な解釈の支援
写真から地理的事象を読みとる場合、その解釈には「唯一の正解」が存在するわけではない。通常、写真には複数の地理的事象が写されるので、それぞれに着目して読むことが可能だ。その際、該当事象についての知識、すなわち「何が写されているのか」が分かると写真解釈が促進される。そこで、写真画像の一部をクリックするとそこに写されている事象に関する解説がポップアップされるようにした。つまり、写真の事象とそれに関する情報が連動する形で画像内に埋め込まれるようにしたのである。この仕掛けの狙いは、写真を探検し地理的事象を読みとることの楽しみを伝えることと、写真は多様な解釈が可能だということを考えるきっかけを提示すること、である。
4. 写真解釈技術の形式知化とその伝達
長年に渡り地理写真を撮影し続けてきた石井氏は、写真の撮影や解釈について多くの暗黙知があると言う。氏が開発してきた技術や知見を形式知にして公開することは、多くの地理写真学習者にとっては有益であるだろう。そこで、我々は、学習者の立場になって、写真解釈や撮影上の知見等を石井氏から聞き出し記録し、それを形式知としてサイト上に構成してみた。さらに、先生と生徒の対話形式で編集することにより、より理解し易い形態の試みとしてみた。
5. 写真とテキストの同調と俯瞰性の向上
本教材には、石井氏による実際の講義・講演を収録し、文章とパワーポイントファイルの両方を用いて学習できるような「レクチャー」というコンテンツとして構成してみた。その際、サイト上では写真とそれに関する講義が同時に俯瞰できるようにデザインした。書籍など既存のメディアでは講義の流れを損なわずに対応した写真を提示していくことが比較的困難であったが、本教材ではデジタルサイトの特性を活かして俯瞰性を向上させることができた。
以上のような試みは、石井氏等の地理写真の教材化の考え【3】に、どれほどに対応できたであろうか。現在、いくつかの学校の教員がこのサイトを活用した授業を試みてくれている。その試行結果を踏まえ、さらに学習効果のあるサイトにしていくためにも、また、e-ラーニングでの自学自習にも活用してもらえるためにも、さらにより多くの実践的利用からフィードバックを得たいと考えている。