日本地理学会発表要旨集
2004年度日本地理学会春季学術大会
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本州島東部の山地地形特性
*野上  道男
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キーワード: 地形計測,DEM,山地
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p. 18

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抄録

目的: 地形を記述する用語として感覚的な「高い山地」「急な山地」「大起伏山地」「壮年期的山地」などが使われ,「起伏」「地形分散量=>標準偏差」など定量的な地形特性値が使われたこともある.しかしこれらの表現のすべては「勾配の統計量」と相関があり,結果論ではあるが「勾配」が計測できないための代替であったと推定される.
 地形学が「記載のレベル」を脱して,「予測のレベル」に向かうために必要とされるモデル(この場合は法則)においては,地形変化(発達)とは物質移動であり,その量を「勾配」が支配している.「勾配」や「ラプラシアン」の項のない地形発達モデル(この場合は数式モデル)はあり得ない.拡散方程式型モデルではラプラシアンは地形変化の速さ(単位時間当たりの浸食深あるいは堆積深)を決める項である.
 ここでは,東日本(東経135度以東,北海道を除く)の10m-DEM(これは通称であり,緯度経度法で定義)を用いて,全陸地点(18億6704万4257点)について勾配(ノルム)とラプラシアンを計算し,集計処理を行い,それと過去に使われていた地形特性値や地質データとを付き合わせた,その結果について報告する.

原データとその処理: 使用したデータは北海道地図KK作成の10m-DEMである.これは国土地理院の50m-DEMと同じように,2.5万分の1地形図の等高線データをラスタ化したものである.緯度経度法を採用しているので,東西と南北方向とでは格子間隔が異なる.しかも東西方向の格子間隔は緯度によって大きく変わる(例えば,九州南部と北海道北部とでは約3割).そこで微分値の計算では格子間隔の補正を行う必要がある.勾配(のノルム:以後単に勾配)は東西方向の勾配,南北方向の勾配のそれぞれの2乗の和の平方根である.
 10m-解像度の計測値は広域を扱うのに細密すぎるので地質データと同じ250m-解像度に集計した.勾配については,(堆積)平地と(浸食)斜面が混在するとき(ほとんどの場合,100-200‰を境とする双頂分布となる),平均値を採用するのは適切でない.そこで250mx250m区画内の25x25=625個の計測値のうち,もっとも出現頻度が高い勾配値を250m-解像度の勾配値として採用した(最頻勾配,以後単に勾配ということがある).
 ラプラシアンは勾配の変化率である.言うまでもなく直線斜面で値は0,負値は凸斜面,正値は凹斜面を表す.250mx250m区画内の25x25=625個の計測値のうち,小さい方から5%値を尾根の鋭さの指標,大きい方から5%値を谷の切込み程度の指標とした.最小値・最大値を採用しなかったのは誤差を避けるためである.ラプラシアンの標準偏差は地形の煩雑さを表す.
 地質データとしては,250m-解像度の地質区分(旧地質調査所CD:100万分の1地質図ラスタデータ)を岩石の種類と時代についてそれぞれ統合して用いた.DEMデータと同じ緯度経度法のデータであるので,そのまま地形データと重ね合わせて集計することができる.

結果:
1)格子間隔10mで勾配を計測し,250mx250mの範囲内の最頻勾配(広い面積を占める勾配)を採用することで,格子間隔が広いDEMを用いた場合や勾配値を平均することによって生ずる値のへたり(現実より小さな値になること)を防ぐことができた.起伏(単位面積当たりの高低差)や地形起伏量(単位面積当たりの標高値の標準偏差)は勾配と非常に良い相関があり,これらの値が(意識的にあるいは無意識的に)勾配の代替として用いられていた理由が実証された.地形的に意味のある「勾配」を地形特性値として用いることの意義は大きい.
2)「勾配」「キメ」「尾根の鋭さの指標」「谷の切込み程度の指標」は地質に依存する.さらに,これらの4つを変数として298万6995(全陸地)サンプルについて主成分分析を行ったところ,これらの4つの変数が大きいほど大きな値をとる「山らしさの指標」が第一主成分として抽出され,さらにこの第一主成分だけで山地の地形特性を十分表現できることもわかった.
3)地質が火山岩や堆積岩の場合は,その時代が浸食開始後の時間経過(最長時間)を示しているとも解釈され,地形変化の経時変化に関する知見が得られる.一般に,時間の経過とともに地形は山らしくなるが,やがて値は収束する.これは地形が平衡形に達したためであると解釈される.

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© 2004 公益社団法人 日本地理学会
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