日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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梅雨前線の出現に対流圏中・上層の循環が及ぼす影響
*永野 良紀
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p. 13

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抄録
1. はじめに東アジアにおいて,6月から7月のモンスーンによる前線活動は多量の降水をもたらし,時には災害にもつながるため,以前より数多くの研究がなされている.Ninomiya and Akiyama(1992)などによれば200hPa高度場のジェット気流が梅雨前線の形成に重要であることが解明されている.しかし,夏季の200hPa高度場から100hPa高度場にかけて卓越するチベット高気圧が梅雨前線にどのように影響してくるのかについてはQ.Zhang et al.(2002) チベット高原東部に存在する場合の方が東アジアに降水をもたらすとしているが,具体的には未解明である.そこで,本研究では,大気の流れより予測が難しいとさせる降水量(特に梅雨季)に役立てるために対流圏中・上層の循環と梅雨前線(以下,前線と示す)の関係を解析した.2. 使用データ 前線解析に関しては,気象庁の印刷天気図を用いた.日本国内の高層観測データについては気象庁の高層観測年報,海外についてはワイオミン大学のホームページを利用した.降水量は気象官署の全データを用いた.なお,解析対象とした期間は1982年_から_2003年である.3. 結果 (1)前線出現日数と日本の降水7月における130_から_140°Eの領域において,25_から_50°Nを5°ごとに出現する前線数を,閉塞前線を除いて調べた.さらに,本研究ではもっとも前線数が多い緯度帯を前線帯と定義した.前線帯は30_から_35°Nに存在する(11年),35_から_40°N(9年),40_から_45°N(2年)であった.前線帯が30_から_35°Nに存在する時は,地域差が生じるものの太平洋側の各地点で降水量が多くなり,35_から_40°Nに前線帯が存在する時は日本海側の各地点で降水量が多くなる傾向があった.(2)WS指数 中国における武漢(30°N,114°E)の200hPa高度場から札幌(43°N,141°E)における200hPa高度場を引いた値をWS指数と本研究では定義した.WS指数と130_から_140°Eの領域内における前線出現日数には関係があり,WS指数が315以下であると30_から_35°Nの領域における前線出現日数は11日未満であった. 武漢は,200hPa高度場におけるチベット高気圧本体の東縁部に当たっている.WS指数が低いということはチベット高気圧の東への張り出しが弱いが,日本付近ではジェットが北上しているということを意味している.また,WS指数が315以下の時,あるいは札幌の200hPa高度場が平年より高い時は,200hPaにおけるチベット高気圧の東西方向のリッジが北偏(30°N付近)していた.反対にWS指数が高いとリッジは27.5N付近に南下する.(3)ジェット気流と500hPaの気温 200hPa高度場におけるジェット気流(西風がもっとも強い強風帯)の南側5_から_10°に前線帯がある.さらに,200hPaジェット気流に沿った形で500hPa高度場における水平方向勾配の気温が最大になっている.4. まとめ 7月の日本における前線出現には,チベット高気圧の東方への張り出し(強弱)と日本付近の200hPaジェット気流の北上が重要であると考えられる.このことを武漢と札幌の高度場の差であるWS指数を用いることにより定量的に示すことが出来た.また, 200hPaジェットと500hPaの気温差が対流圏中・上層の前線(秋山,2000など)を生じ,地上ではその南側に前線帯を生むことが考えられる.また,WS指数が高い方がチベット高気圧が南偏し,ジェットが南下することから30_から_35°Nに前線帯が出現し,前線出現数が多くなると考えられる.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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