抄録
\Section{I\hspace{1em}は じ め に}短周期じょう乱の気候的な位相固定はこれまで「特異日」として認識されてきた。従来はこうした特異性をより大規模な場の力学と関連づけて調べる研究は十分に行なわれてこなかった。本研究では、より大きな空間スケールで短周期じょう乱の位相固定を解析し、位相が固定されるメカニズムを統計的に調べる。\Section{II\hspace{1em}地上気象データの解析}気象庁による1961$\sim$2000年の地上気象観測データを用いて、海面気圧の気候値の季節進行の中から短周期成分を抽出する。ここでは日別値と11日移動平均との差を短周期成分とする。東京における9月の海面気圧の短周期成分を図1に示す。9月上旬から大きな周期的な変動が見られる。同様の傾向は東日本、北日本の他の地点でも見られる(図は省略)。統計的な検定の結果、月全体でみた短周期成分の振幅の大きさは9月のみ有意に大きいことが明らかになった。\Section{III\hspace{1em}客観解析データの解析}次にNCEP/NCARによる客観解析データを用いて、海面気圧と300\,hPa面高度について同様に季節進行の短周期成分を解析した。9月中下旬においては、図1に対応して西風ジェット上に総観規模の波列が見られ、また西から東へ伝播していることや上層で位相が西にずれていることが確認された(図は省略)。このことから、図1に見られるような短周期の振動は傾圧不安定波によるものであり、傾圧不安定波の位相に統計的に有意な偏りがあることが示される。西風ジェット上の波列状のパターンは9月10日頃から明瞭になる。そこで統計的に位相が固定した波列の起源を調べるため、9月8日と10日の300\,hPa面高度の分布を調べた(図2)。東へ伝播する総観規模の波列は、ヨーロッパから西風ジェット上を伝わってくるというよりは、シベリアで有意な偏差が始まっていることが分かる。またチベット高原でも有意な偏差が見られる。図2で有意な正偏差が見られるシベリアにおいて、対流圏下層の気温の季節進行を調べた(図は省略)。季節進行の長周期成分としては8月以降気温は直線的に低下しているが、9月の上旬を境に低下の速さが不連続に速くなっている。この不連続な変化が生じる際に、図2に対応する気温の短周期の変動が生じている。当該領域は緯度が高いうえに標高も高く、積雪や土壌の凍結の開始が季節進行の速さの不連続な変化に対応している可能性がある。また冷却の進行に伴う、夏季のジェットの分流構造の解消が、上部対流圏の力学過程として、急激あるいは不連続な季節進行に関係している可能性も考えられる。