日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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市町村における地区・地域行政の現状と課題
支所機能と地域別計画を題材として
*美谷 薫
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p. 53

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抄録

1.はじめに
 本報告ではまず,市町村が下位地区を導入する際の手法を概観したのちに,市町村における地区・地域行政の現状を,支所や出張所といった出先機関の配置から検討する.最後に,栃木県宇都宮市における「地区行政制度」と総合計画の地域別計画を事例として取り上げ,市町村の地区・地域行政や都市内分権の課題について考察してみたい.
2.市町村が下位地区を導入するための手法
 市町村が地域経営に下位地区を(公的に)導入する際には,1)法令に基づく制度を利用する場合と,2)各市町村が条例で独自にその区域を設定する2つの形態が存在する.
 前者には,政令指定都市の行政区設置のほか,近年の地方自治法改正で導入された地域自治区があげられる.また,市町村合併特例法は,合併後の市町村に旧市町村単位で地域自治区や合併特例区を期限つきで設置することができると定めている.いずれも区の事務所を設置し,特別職の区長が置くことが可能というものである.しかし,これらの制度は約20市町村で採用されるにとどまっている.
3.市町村における支所機能と自治体内分権
 個々の市町村が条例によって支所や出張所を設置し,その管轄区域という形で下位地区を公的に位置づける手法は,上記の仕組みと比較してより一般的である.『市町村役場便覧(平成17年版)』によれば,2004年10月1日現在,全国の約3分の1にあたる1033市町村が,支所や出張所,行政センターなどの出先機関を設置していた.
 支所や出張所は,当初,地域住民の便宜を図る目的で,窓口サービスの供給を主な目的として設置された.1970年代以後,大都市圏郊外の都市を中心に,地域住民とのかかわりを持ちながら,管内のまちづくりに携わる役割がこれに付け加わったとされる.近年では地方都市でも,都市内分権の一環として,出先機関と地域まちづくり組織を連動させ,支所や出張所をその拠点として位置づける事例がみられる.
4.宇都宮市における地区行政制度と地域別計画
 宇都宮市では,「昭和の大合併」で11町村を編入して以後,旧町村単位に出張所を設置してきたが,1970年代に入ると各地区ごとの行政のあり方が議論されるようになった.1985年度に地区行政強化の方針が出されると,出張所と公民館を統合して「地区市民センター」が各地区に設置されることとなり,1989年度にまず市南部の雀宮地区で供用が開始された.地区市民センターには,従来の窓口サービスや生涯学習に加えて,地域まちづくり支援の機能が付与された.さらに2004年度には3センターで保健福祉サービスの供給が開始され,同年度の「地区行政推進大綱」では今後の段階的なサービス拡充が示されている.
 以上のように,宇都宮市では地区行政という形で都市内分権が推進されてきた.一方で,どこまでサービスを拡充するかという点や,本庁と地区市民センターの間のさらなる連携も課題となっている.また,地域まちづくり組織の活動の地域差や,組織の編成における問題も残されている.
 地区行政制度とあわせて,1986年度公表の「第3次総合計画」以後,総合計画には市内を4(5)地域に区分した地域別計画が導入されている.この計画には,各地域ごとの課題や地域づくりの方針,重点施策が記載されている.現在の計画は行政分野別の計画を地域ごとに整理したものであるが,今後は計画策定に各地域の住民参加を進めていくことなども検討すべき点にあげられよう.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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