日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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奥羽山脈南部,御霊櫃峠の強風砂礫地とその周囲における冬季の気温・地温と角礫移動
*瀬戸 真之石田 武宮下 香織早乙女 尊宣中村 洋介田村 俊和
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p. 54

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抄録

_I_.はじめに 郡山・猪苗代両盆地の分水界に位置する御霊櫃峠(海抜約900m)には一種のpatterned groundが発達し(鈴木ほか 1985),その微地形・構成物質等の特徴(基岩の岩質に強く影響された扁平角礫から成る植被階状礫縞)については既に報告した(田村ほか 2004).既報地の南西に隣接する西向き斜面にも,下端部が縞状土(礫縞)的になる岩礫露出地が広がっている.2004年晩秋から2005年春季にかけて,この場所に7本のペンキラインを設置して礫の移動状況を調べると同時に,それぞれ4地点で気温と地温の連続観測を実施し,このような低標高地で地表面の凍結・融解による物質移動・微地形形成が行われる可能性とそのしくみについて考察した._II_.表層物質の移動 岩礫露出地の表層に20cm以下の厚さで長径10_から_20cmの扁平礫が腐植土層を覆ってオープンワークに堆積している.本研究では表層物質の移動を把握するため,斜面上部の緩傾斜部や傾斜変換線に沿うように7本のペンキラインを設置した.ペンキラインは斜面の最大傾斜方向に対し直角に設置した.また,設置は2004年11月8日に行い,2005年6月18日にトータルステーションを用いて再測量を実施した.この結果,すべてのペンキラインで礫が斜面下方へ移動した区間が認められた(図1).この区間での移動量は約50cmである.ただし,ペンキを塗った礫の中には斜面上方へ移動したものが若干認められた.この原因には歩行等による攪乱と強風による移動が考えられる._III_.気温および地温の観測 気温・地温の観測には,(株)T&D製 RTR-52を使用した.センサは径2mmのサーミスタで,-20℃_から_+80℃の範囲では平均で±0.3℃の精度を持つ.GRB1_から_GRB4は気温観測,GRB5_から_GRB8は地温観測に用いた.GRB6とGRB7はセンサが切れるなどのトラブルがあっため,正常なデータを得ることが出来なかった.気温は地表約1mの高さにT字型の塩ビ管を固定し,この内部にセンサを設置して観測した.地温の観測は深度5cmの土壌中に位置にセンサを埋設して行った.観測の間隔は気温,地温ともに20分である.また,本発表で使用するデータの観測期間は,2004年11月8日_から_2005年5月1日である.気温の観測結果は4地点での平均値は_-_0.6℃から1℃,最高値は28.8℃(GRB2),最低値は_-_10℃(GRB4)であった.凍結指数は風向斜面で440.6℃・days(GRB1)であった.また,年周期,日周期の凍結・融解サイクルが認められた.地温の観測結果は平均値で1.1℃(GRB5)と3℃(GRB8),最高値は25.9℃(GRB5),最低値は_-_9.3℃(GRB5)であった(図2).GRB5では2005年1月15日から4月3日まで,0℃から0.5℃の間で温度が推移し,日較差が認められない期間が存在する.この期間は地表面が雪に覆われていたと考えられる.地温の観測でも気温と同様に日周期と年周期の凍結・融解サイクルが認められた._IV_.考察 ペンキラインの観測から地表面の礫は冬季に斜面下方へ移動している区間があることが明らかになった.温度環境をみると,今回の観測地には気温・地温ともに日周期の凍結・融解サイクルが認められる.地温に注目すると,日周期の凍結・融解サイクルは12月3日を初日,4月25日を終日とし,特に12月後半で顕著に認められる.礫の移動が面的であることや,温度観測の結果から,表流水による礫の移動ではなく周氷河性の物質移動であることが強く示唆される.礫の移動がソリフラクションによるならば,この時期に移動したことが推定される.具体的にはジェリフラクションやテーラスクリープなどが考えられるが,今回の調査から移動プロセスを特定することは困難である.

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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