日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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新潟県中越地震による農地の被害とその復旧の諸問題
*瀬戸 真之高田 明典松尾 忠直中村 洋介
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p. 55

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抄録

_I_.はじめに 新潟県(2004)によると,新潟県中越地震で被害を受けた農地は2004年11月14日現在3985ヶ所,1503haにおよんでいる.この報告は降雪前の状況であり,現在は降雪・融雪の影響によりさらに被害が拡大していると思われる.被災地域には第一次産業を中心とした産業構成の地区もあり,農地が受けた被害の復旧は地域の復興に大きく影響すると考えられる.本発表では,栃尾市半蔵金地区で行った被害調査および聞き取り調査の結果を報告し,農地の被害とその復興に関わる諸問題を明らかにする.半蔵金地区の総人口は233人,そのうち農家人口は192人である(2000年国勢調査による)._II_.農地の被害とその特徴 農地には,農地そのものの被害と農作業に必要な設備(農道,パイプライン等)の被害が認められる.耕作地そのものの被害には,崩壊,亀裂,液状化による噴砂および地表面の傾斜が顕著であった.半蔵金地区の入道沢では,今回の地震により大規模な地すべりが発生した.入道沢では谷底部を除き,谷壁斜面は谷頭部まで棚田として利用されていた.谷頭部の棚田は地すべり土塊として塊状に移動した.この結果,棚田は著しく変形し,耕作面は数十度傾斜した.地すべり土塊に含まれなかった周囲の棚田には亀裂や崩壊が認められた.農業設備の被害としては農道の亀裂・段差・崩壊および水を供給するパイプラインの破壊が顕著である.また,棚田に水を供給していた水源で水が出なくなるという被害もあった. 半蔵金地区内では入道沢以外でも地震による農地の被害が広く認められる.被害の内容は入道沢の例とほぼ同様で,棚田の崩壊,耕作面の傾斜,亀裂などである.しかし,入道沢と異なり壊滅的な被害を受けた農地は見られなかった.また,農道に大きな破損がなかったこともあり,重機を入れることが可能である. _III_.農地の復興とその問題 入道沢では農道が使えなくなったため,重機を入れることができず,農地の復旧は全く進んでいない.耕作者が高齢化していることもあり,農地が速やかに復旧しない場合には耕作放棄される可能性もでている.また,水が得られなくなった農地では,現在のところ新たな水源を探している状況であり,パイプラインと併せて復旧は困難である. 被害を受けた農地まで重機を入れることが可能な場所では,国や県,市など行政サイドによる復旧工事を待つことなく,耕作者が自ら重機を用いて農地の復旧にあたっている.これは,すでに苗ができてしまったため,田植えまでの時間的余裕がないことと,復旧工事を業者に依頼すると高いコストがかかるためである.地震による林道や農道の被害については復旧工事の予算が国によって付けられたため,復旧が進んでいる.しかしながら,降雪・融雪による被害については,現在のところ復旧工事の予算がないため,来年度以降の復旧となる.また,集落周辺の林道,農道を優先して復旧させるため,入道沢への農道の復旧は数年後になる見通しである.これは復旧工事を請け負う業者の作業量に限界があるためである. 半蔵金地区では,近年耕作放棄された農地は,あまり多くはなかった.しかし,今回の地震被害によって耕作放棄される可能性が高まってきている.耕作放棄には,A.農地が壊滅的な被害を受け,耕作不能になる B.農地に被害がなくても農道が使用不能になり,耕作が困難になる C.耕作者の住んでいた家屋が被害を受け,農地から遠いところに耕作者が転居する D.地震を契機として被害を受けなかった農地も含め,耕作していた農地をすべて放棄する などの理由が考えられる.特に農道の被害に起因する耕作放棄は入道沢の例で見るように,その可能性が極めて高いと言える.被災地における農業の衰退を回避するためには,集落や幹線道路だけではなく,農地につながる林道や農道の速やかな復旧が非常に重要である._IV_.今後の課題 これまでの調査で今回の地震による農地の被害とその復興に関する問題点を指摘した.今後は,耕作者の年齢構成や行政サイドによる復興計画の進捗状況にも注目したい.また,本地域は繰り返し,地すべりをはじめとする土砂災害に見舞われてきたので,過去の災害とその後の農地の復旧についても調査を進めたい.この結果から,今回の地震被害をさらに特徴づけることが可能であると考えられる.

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