日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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タイ国アンダマン海沿岸平野における津波最大波高分布と被害状況
*平井  幸弘川瀬 久美子Charl chai TanavudPatanakanog BoonrakSumitra WatanaThawin NorthamNaruekamon Janjirawuttikul
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p. 64

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抄録

はじめに 2004年12月26日に発生したスマトラ島沖地震は,震源に近いインドネシアでの強振動に加え,インド洋沿岸を襲った津波によって,各国に大きな被害をもたらした.津波災害については主に最大波高のデータが各地から報告されているが,地形的特徴と沿岸の津波災害の関係については詳しい報告はなされていない.本研究では,アンダマン海沿岸地域の中でも多数の犠牲者を出したタイ谷南部パンガー県Nam Khem 平野およびKhao Lak平野について,地形的特徴と津波波高や住民被害との関係について検討する.Nam Khem 平野およびKhao Lak平野の地形 両平野とも沿岸には東西約2 kmの幅の砂堤列平野が発達し,その背後には 低地との比高が5 m前後の台地が分布している.このうちNam Khem 平野については,津波襲来以前に撮影されたカラー空中写真,および津波直後に撮影されたIKONOS画像等を用 いて、海津が微地形分類を行った(海津ほか, 2005)。それによると比高1m弱の浜堤列および堤間低地が認められるが、平野は全体に低平で,その高度は海岸の高潮位線からの比高 2?3 mと低く,また低地を中心に行われたスズ採鉱によって,一部の地形は人工的に大きく改変されていることなどが明らかにされている。一方Khao Lak平野でも,Nam Khem平野と同じように地形分類を行った結果,3列の砂堤列と堤間低地が認められ,Nam Khem 平野同様低地の起伏はかなり乏しく,北部のPaKarang岬ではほぼ平坦であることが明かとなった.なお,両平野ともに,スズ採鉱跡地に水が貯まった池沼と,廃土によって所によっては標高20 m に達する小丘が多数分布しており,段丘崖や低地の原地形を不明瞭にしている.津波波高の分布 Nam Khem 平野では12カ所で,Khao Lak平野では9カ所で津波の最大波高を測定した.両平野では海岸部における最大波高がともに7 m前後で,一部には8 mを超える地点も確認された.波高は内陸に進むにつれて急速に減じ,Nam Khem平野北部では4.6 m,Khao Lak平野では5.6 mの高さまで低地を浸水させた.ただし,Nam Khem平野の段丘崖斜面やスズ採鉱の廃土による小丘の斜面では,内陸にも関わらず津波の遡上高は7 mを超えている(図1).これは,低地の奥行きが小さいため,波高を減じながらも波の勢いは衰えず,斜面にぶつかり,数_m_高いところにまで津波が達したためと考えられる.また,Khao Lak平野南部にある幅500_m_以下,奥行き数百_m_の複数の低地では,津波最大波高は7.68?8.10_m_に達し,海岸部にあるリゾート全体が激しく破壊されているのが特徴的である.地形・土地利用と被害状況 平野の海岸線に沿った浜堤上には,防風林(モクマオウ)が植林され,それより内陸部はココヤシやカシューナッツのプランテーションとして利用されるほか,多くが草地となっている.Nam Khem 平野の北部には漁港を中心とした集落(Nam Khem)が立地していたが,波高の高い津波に直接襲われ,大きな被害を出した.一方,港から南へ約2 km,海岸から約1 km入った低地上の集落では,津波の到来に気づいた村長が住民に避難を促し,住民は近くのスズ採鉱廃土の小丘(道路より比高2.2 m)に逃れた.ほぼ平坦な低地地形と密度の薄い海岸の防風林は,津波のエネルギーをほとんど弱めず,津波はこの集落の家屋を破壊したが,幸いにも最小限の人的被害にとどまった.住民によると津波の進行速度はバイクよりも速く,引き波は浸水の中を泳いで逃げる住民の衣類をもぎ取るほどの勢いだったという.したがって,住宅の近くにおける頑強で高度のある避難所の建設や警報システムの整備が,将来の津波災害の軽減には有効と考えられる. 

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