日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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二次医療圏別にみた医療供給体制の地域的特徴
*中村 努
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p. 65

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抄録

_I_.はじめに
 1985年に成立した第一次医療法改正により,各都道府県は病院の病床の整備を図る地域的単位として二次医療圏を定めた上で,医療計画を策定した。医療法施行規則に定める算定方式により,各医療圏に対して必要病床数(現在は基準病床数)が整備目標として掲げられたことによって,従来は自由であった病院の開設に対して規制がかけられた。それ以来,二次医療圏は,住民が短時間でこれらの保健医療サービスを受けることが可能となる圏域としての位置づけがなされている。しかしながら,地理学において,二次医療圏が実際の住民の生活圏を反映した圏域として,どれほどの地域的単位としての意義をもつのかを論じたものはない。そこで,本発表は医療における需要と供給の齟齬を把握することで,二次医療圏の地域的単位が持つ意味を考察したい。日本における医療体制の現状を二次医療圏別に検証するための前段階として,まず,各都道府県が二次医療圏を設定したプロセスを明らかにする。次に,医療資源の地域的分布から,二次医療圏別の医療供給の現状を概観する。さらに,患者の受療行動から医療需要の地域的特徴を検討する。
_II_.二次医療圏の設定の経緯
 二次医療圏の意義は,病院の一般病床に係る入院治療を要するような比較的専門性の高い医療需要に対応することである。そのため,医療圏の設定にあたっては,各都道府県の保健医療計画において,地理的条件や住民の生活行動の実態,交通事情や医療資源の配置状況などから総合的に勘案したとされる。しかし実際には,従来から存在する行政区分や既存病床数に基づいた地域区分となっている。例えば,千葉県の場合,県の出先機関として「支庁」を県内全域に設定していた。この既存の圏域との整合性をとって二次医療圏が設定された。支庁の管轄区域は旧郡域がそのまま利用されているため,千葉県の二次医療圏の地域スケールは,郡域が根幹になっている。また,圏域の数も変化している。当初,県内で12圏域あった二次医療圏は,1991年に8圏域に減少し,2004年に9圏域へと再度細分化された。このように,医療圏域の経年的変化のプロセスにおいても,都道府県によって事情が異なる。現在,地域を取り巻く条件の変化によって地域間の結びつきが変わったため,郡の地域的単位を基に設定された二次医療圏と,実際の生活圏とが一致しなくなっている可能性が指摘できる。
_III_.医療供給体制の地域的特徴
 現実の患者の医療施設利用行動は二次医療圏内で完結しているのであろうか。ある二次医療圏に居住する入院患者のうち,当該医療圏内に所在する医療機関で受療する割合をみると(図1),隔絶性が高い地方の中核都市を含む圏域では,圏内受療割合が高い。一方,上記の医療圏に隣接する医療圏や,農山村や島嶼部などの医療資源が不足している医療圏,大都市圏の医療圏において,その割合が低い。このことから,地方では,医療資源が不足している医療圏から地方都市へ患者が流出する一方で,大都市圏の都市部においても,医療圏間の移動が顕著であることが分かる。しかし,医療圏のスケールは都市部で小さく,地方で大きくなる傾向があり,医療圏間の比較の際には注意を要する。
 基準病床数と既存病床数からみた医療資源の偏在の現況,医療施設の機能に基づいた医療サービスの階層構造についての詳細は当日発表する。

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