日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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三宅島の災害復旧と復興(報告)
*山下 太一石原 肇瀬戸 真之高木 亨小松 陽介田村 俊和
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p. 66

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抄録

1.はじめに 三宅島では,2000年6月以来火山活動が継続し,大量のガスが噴出している.そのため,全島民が長期間避難するという先例のない事態が続いた.2005年2月の避難指示解除で一般島民が帰島し,同年5月1日以降は観光客の受け入れも再開された.しかし、今後の復興にあたっては多くの課題が残されている. 本発表では,観光客受け入れ再開直後の2005年5月上旬に実施した現地調査をもとに,災害復旧・復興策の特徴と,島内各所の復旧状況および住民生活の復興の現状を,火山活動の特色およびその影響の島内における地域的差異と関連づけながら報告する.2.火山カ゛ス濃度を考慮した居住・活動規制ソ゛ーニンク゛ 雄山では,中央の火口からSO2を含む火山ガスの噴出が続いている.そのため、三宅村は条例に基づき,火口周辺半径0.7_から_0.8kmの範囲を立ち入り禁止区域,それを取り巻く半径約2kmの範囲(中腹部の環状林道より上部)を危険区域に指定して,これら同心円状のゾーンには,観測・工事関係者以外の立ち入りを禁止している.その外側に位置する山麓部を,集落分布に基づき8つの発令エリアに区分した.これらのうち,東側と南西側の2つのエリアは,卓越風向によりガス濃度が高くなりやすいことから,「高濃度地区」として,避難指示解除後も居住が禁止されている.山麓部の外周都道沿いの14地点ではSO2濃度と風向・風速などを観測している.ガス濃度の観測結果により上記8つの発令エリアを単位として,4段階のレベルに分類して避難行動(ガスマスク着用,室内避難,発令区域外への移動,脱硫装置を備えた避難施設への避難等を指示)を定めている.現在でも,低レベルの注意報は1日に数回の頻度で発令されている.島の東_から_南東部の坪田地区と南西部の阿古地区は,定期航路の桟橋や空港等が位置し,行政・商業の中心的機能を有してきた.しかし,両地区の一部は高濃度地区に指定され,中心的機能の一部移転を余儀なくされている.3.公共施設と宿泊施設 三宅村役場は坪田地区に存在したが,この地区は避難指示解除後も「高濃度地区」に指定されている.そのため,村役場は阿古中学校を仮庁舎としている.一方,東京都三宅支庁は火山ガスの影響が少ない伊豆地区に存在する.2001年5月から2005年の避難指示解除まで,現地災害対策本部としての役割を担った.また,多くの公共施設では脱硫装置が設置され,これらは復旧作業員用宿泊施設として利用されている.また,2003年に伊豆・神着・坪田地区にある一部の民宿では脱硫装置が設置され,作業員の受け入れが開始された.この際,脱硫装置設置費用は各民宿により負担された.4.災害復旧状況 島内一周道路をはじめとする生活に必要な道路は復旧工事が終了しており,泥流災害などの影響は見られない.しかし,雄山中腹,とくに林道雄山環状線よりも上の高濃度地区では,火山ガスと噴出物の影響により樹木は立ち枯れて,表層の植生が奪われており,ガリー侵食が目立っている.従来,雄山中腹はスコリアに覆われており,水はけが良かった.しかし,大量の降灰によって浸透能が低下し,表流水の増加により侵食が進んでいる.雄山山麓の谷では,土石流災害のおそれがある.このため,山麓部分では砂防工事,中腹では治山工事が進められている.現在,村営牧場は危険区域に入っているが,ここでも大規模な治山工事が進められている.5.産業の復興 観光業の復興が進められた結果,2005年5月から観光客の受け入れも再開された.受け入れ再開直後の観光客数は1日当たり約200人である.これは当初の予想を上回っており,民宿をはじめとする22軒の宿泊施設が営業を再開している.観光客の主な目的は釣りとダイビングである.漁業の復興は,阿古地区にその漁港など関連機能を集中させており,2005年2月に復興後最初の水揚げがなされた.しかし,漁業は従事者の高齢化と労働力不足により噴火前の水準には戻っていない.日用品を取り扱う商店は早期に営業が再開されたが,島内唯一のクリーニング店が営業していないなど不便な面も多い.農業は,農地が長期間にわたり放置されたため,大部分で自然植生が復活し,耕作が困難となっている.またビニールハウスなどの施設も火山ガスや土砂災害の影響で腐食し,倒壊している.6.まとめ 三宅島の災害復旧と復興は,土石流対策としての治山・砂防工事とガス対策を軸に進めざるを得ないであろう.発令エリアの設定や脱硫装置を設置した民宿は,ガスを主体とした災害対応の先駆的な取組みである.今後の運用状況を見守っていきたい.島民の帰島は徐々に進んでいるが,人口は避難時(約3,800人)の約半分に過ぎない.商工関係の再建は融資制度に依存しているなど種々の課題も顕在化している.このような課題を解決するための調査を今後も継続したい. 

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