日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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中央ケニア,Ewaso Ngiro川上流農業地域の地形形成環境
*大月 義徳佐々木 明彦松林 武
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p. 71

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抄録

 ケニア中東部からソマリアを経てインド洋へ続くEwaso Ngiro (Nyiro) 川は、ケニア中央部、Nyandarua (Aberdare) 山地北東端に源を発する。同河川上流域に位置し異なる気候環境下にある2地域において、農耕地の土地環境条件に関する比較検討調査を行った。ここでの2地域は、一方が降水量の比較的豊富な旧来からの農業適地集落、他方は人口増加に伴い定着農耕が半乾燥地域に拡大し成立した新開農業集落と、それぞれ歴史的にも差異がある。本発表では、地形地質調査・水文観測等の結果を含め、両地域に卓越する地形形成プロセス、および農耕地を取りまく地表環境の実態について報告する。
1. Nyandarua山地東部地域、EndarashaおよびWatuka Sub-location付近 (Nyeri District, Central Province)
熱帯性高地気候下にある本地域は、Nyandarua (Aberdare) 主稜の北東約15ないし20 km、標高2,300_から_2,600 mに位置する。年2回の雨季を中心に1,000_から_1,200 mm程度の年間降水量を示している。本地域の地形は、鮮新世火山岩類の準堆積面と、これを刻む開析谷(乾季にも地表流が存在する)により特徴付けられる。開析谷底・頂部斜面の比高は70_から_100 m程度、両者間に存在する谷壁斜面の勾配は大きく、時に平均30°に達する。農耕地が主に分布する谷壁斜面上では、豊富な降水量に起因し、斜面崩壊(崩壊性地すべり、表層崩壊など)による比較的急速なマスムーブメントによる斜面更新が活発である。また谷壁斜面上に、最大比高1 m程度に及ぶ小崖が階段状に断続する状況がしばしば観察される。この階段状小崖斜面は、高含水時において表土層の流動性が高い状態に変化したことに伴い、表土層のブロックスライドあるいは多重スランプが発生したことに起因すると推察され、上述の斜面崩壊の移行過程にあると捉えられる。2004_から_2005年における降雨量・土壌水分量観測の結果から、本地域の表土層は、特定の降雨イベントに対応し、少なくともB層下面(地表下1 m弱程度)までは鋭敏に土壌水分量を増加させる傾向にあることが明らかになった。しかし、斜面崩壊地および階段状小崖斜面に設定した測線に沿う地形測量結果からは、上記期間の2回の雨季における有意な地形変化は検知されなかった。引き続き、表土層の粒度組成および土壌コンシステンシー等を室内分析によって明らかにすることが必要と考えられる。
2. Laikipia平原、Ngobit Location付近 (Laikipia District, Rift Valley Province)
Nyandarua (Aberdare)主稜北北東約35 km、標高1,850_から_2,000 mに位置する本地域は、年間降水量700mm前後の半乾燥地域に相当する。地形的には、前期中新世塩基性火山岩類の広大の削剥域に該当し、起伏量は相対的に小さい。農耕地は主として谷底面(沖積面)・河成段丘面上に分布するが、河成面の周囲に広がる基盤岩緩斜面上にも一部農耕地が展開しつつある。本地域では、広範囲に分布する基盤岩斜面を中心に、現在sheetwashによる面的削剥が広域的に卓越し、washの局所的収束に伴い基盤岩緩斜面の下半部には小規模なgullyあるいはチャネル状の地形が形成されている。本地域において、一般にsheetwashによる斜面更新が活発であるとは考え難いが、基盤岩急斜面と同緩斜面との間の遷緩線付近などの一部では、sheetwashによる1 m程度以上におよぶ近年の面的高度低下の認められる箇所が存在する。このことは、斜面配列や中長期的な降雨パターンの変化のみならず、植生や土地利用の態様等、地表状況の変化によっては、sheetwashが半乾燥地域における斜面プロセスとして、今後、より強く発現することもあり得ることを示している。

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