日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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内モンゴルにおける草地劣化と環境政策
*小金澤 孝昭
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p. 72

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抄録

1.はじめに:近年、春期の黄砂が日本へ飛散する傾向が顕著になってきた。この黄砂という現象を手がかりにして、黄砂や砂漠化、草地劣化などの地理的事象の背景を考えようというのが、本研究の趣旨である。またこうした分析は、本シンポジウムのテーマである環境地理教育の素材としても適していると考え、取り上げた。今回報告する研究の目的は、中国の退耕還林政策により、一定の保全が行われている農業地域、牧畜地域でどのような土地利用状の劣化が生まれているのか、その対策として打ち出された、退耕還林政策や禁牧政策によって農民や牧民がどのような対応行動を採ろうとしているのかを明らかにすることである。2.調査地域の概要:本研究の対象地域は、中国内モンゴル自治区の、南西部に位置するフフホト特別市武川県地域と四子王旗地域である。この地域は耕作地域と草原地域とのほぼ境界にあたる地域で、農業地域、境界地域、牧畜地域の3地域を検討できる特徴がある。この地域の草原は、いまだ砂漠化が深刻化してはいないが、牧民ヒアリングによれば、30年前は約30cmの牧草が広がっていたという。今は5cmも満たない荒れた草地が続く状態である。農業地域も年間300mm_から_400mm程度の降水量で、放牧と農業との組み合わせをおこなっていたが、羊や山羊の過剰放牧で、退耕還林政策の指定を受けている。3.草地劣化と退耕還林:この地域の草地劣化や土地利用の劣化の要因としては、草地における畜種の変化と換金性の高い作物の導入である。畜種の変化としては、1980年代からこの地域の導入されたカシミヤ用の山羊の増加とあわせて毛と肉の両方とも販売できる羊の増加が指摘できる。山羊は1994年に最高取引価格を示し、それ以後下落して変動しているが、急速な減少には至らず、いまだに草原の重要な換金畜種として位置づけられている。農地においてはジャガイモと油菜の輪作をしているが、ジャガイモ畑では夏期にシート・ウオッシュも見られた。この地域では2000年から退耕還林政策が始まり、補助金政策により、農地から草地や隣地への転換が進んだ。また、同時に草原での禁牧や農業地域の草地での放牧禁止の策も採られている。またこの政策は草地の保全という環境政策の側面と同時に、農民には労働集約型の商品的農畜産物への転換を図り、牧民には観光農業や畜種転換を進め、商品的農業経営を促進する経済政策の側面を持っている。4.禁牧政策と農業経営・牧畜経営の変化:この地域での農業地域での顕著な変化としては、大型家畜の導入が特徴的である。乳牛が乳業工場のCS(クーラステーション)の立地と呼応しながら、乳業会社の導入資金援助で広がっていることである。また同時に養豚などの中型家畜も導入され、羊や山羊からの転換は一定程度成果を挙げている。しかし、CS立地の及ばない地域では依然として山羊の増加があり、草地の劣化への対策にはなっていないのが実情である。退耕還林政策は、草原地域に地域差を生むと同時に新たな環境問題の課題も生み出しつつある。

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