日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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新しい世界地誌教育のあり方を考える(その2)
小中高一貫カリキュラムを考えることの意味
*池下 誠
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p. 76

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抄録

1.日本の地理教育における一貫カリキュラム作成の必要性 志村(2002)は現行の学習指導要領を分析し、高校と中学校だけでなく、小学校の生活科・社会科学習指導要領でも、地理的技能とみなされるものをかなり見出すことができることから、小学校から高校まで一貫して地理的技能が重視されるようになったことを指摘した。また、地理的技能の体系化とわかりやすく提示されたものが、これまで以上に必要であるにもかかわらず明示されたものがないことから、地理的技能の難易度や段階制をふまえた、系統的に一貫したカリキュラムを提示することの必要性を強調した。 吉田(2002)は、我が国でカリキュラム開発がほとんど行われてこなかった背景を考察するとともに、本来カリキュラムが提案されたならば教育実践を通してそれを評価し、次のカリキュラム開発へフィードバックさせることの重要性を指摘した。しかし、現実にはカリキュラムが提示されても、一時的に批判が寄せられるものの、それらを集約し次のカリキュラムにまとめあげる試みは、ほとんど行われてこなかったことを指摘し、幼稚園・保育園、小学校、中学校、高等学校、大学における一貫した地理カリキュラムを提案することの必要性を述べている。 戸井田(2002)は、学習者の発達的見地を考え、網羅的な地誌学習から地理的事象の系統的把握や地域性の解明へと学習内容を深化させたり、知識吸収の効率を重視する機械的で反復的な指導法(実質陶冶)から、調べ方や技能、見方・考え方を伸ばす指導法(形式陶冶)へと質的な転化を図ったりすることが理にかなっているとし、地誌学習と系統地理学習の兼ね合いのなかで地理教育のカリキュラムの一貫性を模索すべきであることを述べている。2.小中高一貫カリキュラムの作成が求められる背景 上記のように、(保育園・幼稚園)、小中高の一貫したカリキュラムを作成することが求められるようになった背景には、アメリカをはじめ諸外国では、地理学会と地理教育界とが共同して、新しい時代に対応したカリキュラムづくりが進められ(白井、2000)、日本においても、地理学会と地理教育界の主導によるカリキュラムづくりを作成することが求められるようになったことによる。 中山・和田(1996)は、アメリカでは、ナショナル・スタンダードを作成するのが国の機関ではなく学会であり、これが現場の教師の改革への活力を導き出すことにつながっていると述べ、現場の声がカリキュラム開発に生かされ、地理教育の活性化につながっていることを指摘した。 上記のようなカリキュラム作成に対する声の高まりを受けて、本学会でも地理学会の第一次地理教育検討委員会(1986年_から_1990年)では、シンポジウムや地方例会、地理教育をめぐる広範な問題から当面検討すべき14項目を洗い出し、アメリカ地理教育復興運動でつくられた「地理ガイドライン」のような基本項目である「小中高一貫カリキュラム」を作成することが提案された。3.本研究会による小中高一貫カリキュラム試案 これまで我が国で作成された小中高一貫カリキュラムは、以下のようにわずかに散見されるだけである。西脇(1998)は、地理的技能を育成するために、小学校前期・後期、中学校、高等学校に分けたシークエンス試案を提示した。戸井田(2002)は、学習指導要領や地理教育の現状を踏まえて、小・中・高校のカリキュラムのシークエンスを作成した。 また、志村(2002)は、日本の地理的技能を重視した学習指導要領に近い、イギリスの「ナショナル・カリキュラム」を分析し、その地理的技能の構造と内容をスコープとシークエンスに表した。 本研究会では、以上の先行研究などを参考にし、発達段階に応じて扱う地域のスケールを考えるとともに、「空間的展望」「時間的展望」「構造的理解」の3つの観点から、学習内容を考えた小中高一貫カリキュラムを作成した。

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