日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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西南日本における地方霊場と寺院について
*田上 善夫
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キーワード: 霊場, 寺院, 宗派, 西南日本
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p. 78

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抄録

_I_.地方霊場の開創 代表的な霊場である観音霊場は,中世に広範な観音信仰にもとづいて開創され,また大師霊場は近世より大師信仰にもとづいて多様な霊地を含めて開創された。西国観音霊場や四国大師霊場では,個々の札所寺院の多くが山麓や中腹に位置するようすがみられる。西南日本には小豆島新四国霊場や篠栗新四国霊場をはじめ,多く人々が巡る地方霊場があるが,それらの札所も同様に山地周辺に位置している。また里山を巡るような小さな地方霊場も多数開創され,観音などを祀る無人の堂庵や,祖先の刻名も含まれる路傍の石仏,また弘法大師の旧跡などが三十三ヶ所や八十八ヶ所となり,そこに納経・納札して巡られる。こうした地方霊場にはさまざまなものがあるが,それらはとくに開創の年代や規模などで差異があり,地方霊場の地域的・時代的な展開の過程が影響していると考えられる。_II_.西南日本の地方霊場 とくに中国・四国地方から南西諸島にかけては,地域により地方霊場の分布密度やその性格が異なるようすがみられる。三十三観音霊場は広域に分布するが,山陰と大分県をはじめとした九州北部にとくに多い。八十八大師霊場は岡山県をはじめ瀬戸内とその周辺部に多く,中・北九州にも多数が開創されている。一方九州南部以南には観音・大師などの地方霊場は少なく,とくに鹿児島県では新たな九州霊場の一部として札所があるほかは,地方霊場は例外的である。沖縄県においては古くから東御廻り,西廻りなどの聖跡の巡拝が行われてきたほか,また御嶽や拝所を巡拝する季節行事がみられる。_III_.地方霊場と寺院宗派分布 地方霊場の開創はその由来より寺院が深くかかわっており,寺院宗派の分布にも地方霊場の地域的な差異との類似が認められる。『全国寺院大鑑』(法蔵館,1991)より寺院宗派を天台,真言,浄土,禅,日蓮などの系に分けて,現在の宗派別の寺院分布を示す(図)。四国,とくに瀬戸内には,多数の真言系寺院が展開しており,九州北部でも同様である。讃岐は弘法大師縁の地であり,また上記の地域には石鎚山や英彦山などの修験の山岳も含まれている。一方中国西部や南九州では現在は天台系や真言系寺院は少なく,浄土系寺院が多い。薩摩藩境では托鉢,六部,念仏者の一宿が禁じられていたが,明治の廃仏毀釈後には浄土真宗が展開した。沖縄では現在,宗教法人化されている仏教寺院は30余でほとんどが沖縄本島にあり,また神社本社も10余でほとんどが本島にあるのみだが,御嶽をはじめ伝統的な信仰施設は広域にわたり多数分布している。_IV_.地方霊場の展開要因 西南日本各地での地方霊場の差異は,寺院宗派分布との比較にもとづくと,およそ修験道や密教などの波及とかかわるものと考えられる。西国霊場などの開創にみられるように,霊場と修験の結びつきは深く,札所も山地周辺に位置している。四国霊場では発願・結願の札所が四国東部におかれて,満願後に高野山に参るなど,密教との結びつきは深い。九州北部の篠栗霊場なども,瀧などの修験の行場から大師霊場が開創された。地方霊場も本来の観音の祀られる地を巡る観音霊場から,大師の聖跡を巡る大師霊場へと,対象や地域が拡大された。西南日本でも鹿児島県内では,藩政期から明治以降において霊場の開創がみられない。さらに南西諸島では北部に中世の修験の影響がみられ,また沖縄では観音は主要な菩薩とされたといわれるが,近世までにいわゆる観音・大師霊場の開創がみられず,薩摩の南にあって霊場は波及しなかったと考えられる。九州以南では森山がガローやオボツ等々とよばれて信仰の対象とされ,また多くは祖先崇拝にむすびつく里山などを含めて巡拝する習俗がみられる。こうした巡拝は地方霊場開創以前の各地においても存在していることからみて,地方霊場が広域に波及する過程ではこうした巡拝の地が地方霊場に転化したことも考えられる。 図 西南日本における寺院宗派の分布 (● 真言系 □ 浄土系)

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