日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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次世代の天気予報モデルWRFへの都市キャノピーモデルの導入効果
*日下 博幸陳 飛テワリ ムクル平口 博丸
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p. 86

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抄録

1. はじめに
近年、メソスケール気象モデルは都市のヒートアイランド現象の予測・解析ツールとして幅広く利用されている。ペンシルベニア州立大学(PSU)と米国大気研究センター(NCAR)が開発したMM5は,世界で最も多くのユーザーをもつモデルの一つであり、ヒートアイランド研究に貢献してきた。現在、米国では、NCARや米国環境予測センター(NCEP)などが共同で、MM5の後継モデルに位置付けられるWRFモデルを開発している。しかしながら、現時点では、都市の効果は植生モデルのパラメータ調節という形でしか考慮されていない。そこで、われわれWRFプロジェクト陸面モデリンググループでは、都市の効果をより物理的に考慮した都市モデルの導入を行っている。本研究では、都市モデルを含むWRFモデルとそれを含まない標準のWRFモデルを比較することにより、WRFへの都市モデルの導入効果を評価する。
2. WRFモデルの概要
WRFモデルは、米国の天気予報モデル「Eta」、世界で最もユーザーの多いモデルとして知られる「MM5」の後継モデルに位置づけられている次世代モデルである。数10km四方から数1000km四方の領域を数100mから数10kmの水平分解能で計算することを想定して設計されている。基礎式に静力学平衡や非圧縮の近似はほどこされていない点、数値スキームの精度がMM5やEtaより高い点、最新の物理モデルが導入されている点などから、従来のモデルよりも高解像度・高精度の計算により適していると考えられている。
3. 都市モデルの概要
本研究で導入された都市モデルはKusaka et al (2001)によって開発され、Kusaka and Kimura (2004)によって改良された単層キャノピーモデルである。(a)都市をストリートキャニオンの集合体とみなし、(b) キャニオン内での短波・長波放射の反射、(c) ゼロ面変位、(d) キャニオン内の弱い風速を考慮し、(e) 屋根面・壁面・道路面で別々に熱収支・表面温度・内部温度が計算することによって、都市全体から放出されるフラックスを計算する、などの特徴を持っている(図1)。
4.WRFへの都市モデル導入効果の検討
2004年7月7日は高気圧に覆われ全国的に晴れとなった。午後3時に、東京都の北部から埼玉県の南部、栃木県南部にかけて35度を越す高温域が、関東平野の北西部を中心に36度を越す高温域が観測された。翌朝は、関東地方全域で25度を越すいわゆる熱帯夜となった。本研究では、この事例を対象として数値実験を行い、都市モデルの導入効果を評価する。標準WRF、都市モデル導入WRFとも7月7日午後3時の気温分布をよく再現している。両者の結果に大きな違いは見られない。一方で、7月8日午前3時の気温分布に関しては、標準WRF、都市モデル導入WRFともその再現性は日中ほど良くない。ただし、都市モデル導入WRFのほうが東京の高温域をより明瞭に表現している。これらの違いは標準WRFと都市モデル導入WRFによって計算された7月7日午後9時の顕熱フラックスの分布によって説明できる。標準WRFによって計算された都市域におけるこの時間の顕熱フラックスは負の値となったが、都市モデル導入WRFは都市域で平均5-10W/m2程度、最大で15W/m2を越える顕熱フラックスを地表面から放出している。これらの結果は、都市のキャノピー効果が都市の下層大気の冷却を緩和し気温の日較差を小さくしており、それゆえに都市キャノピーモデルの導入は天気予報モデルの気温予測精度向上に寄与することを強く示唆している。

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