日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
会議情報

ラオス中部,ビエンチャン平野の地形環境と土地利用
*小野 映介
著者情報
会議録・要旨集 フリー

p. 90

詳細
抄録

1.目的 インドシナ半島北部の内陸に位置するラオスは,国土の大半が山岳地帯からなり,平野部は,メコン河沿いとその有力な支流沿いの地域に限られる.国土に占める平野部の割合は極めて低いが,首都ビエンチャンをはじめとする主要都市の多くは平野部に立地しており,都市近郊では稲作を中心とする農業活動が行われている.本研究では,ビエンチャン周辺に広がる平野(以下,ビエンチャン平野と呼ぶ)を対象として,稲作や野生生物資源利用といった人間活動に密接に関連すると考えられる微細地形(微地形)の特徴や,河川・湖沼の季節的水位変動を明らかにした.2.微地形分類結果(平野南部,サイタニー郡域)ビエンチャン平野南部に位置するサイタニー郡周辺の標高は,約180_から_160mで,極めてなだらかな起伏を伴う波状地形が認められる.こうした微起伏はメコン河やグム川の侵食作用によって形成されたと考えられる.この地域の微地形は,侵食の進行度により4つに区分(高位面・中位面・低位面・氾濫原面)することができる.高位面はサイタニー郡の北部の山地との境界部に分布し,その大半は山地から流入する河川によって下刻されている.中位面は郡西部に良く発達しており,それぞれが孤立丘の様相を呈する.低位面は郡内において最も広い面積を有する地形面である.また,低位面はグム川の支流によって下刻されており,河川沿いには狭小な氾濫原面が発達する.3.河川や湖沼の季節的水位変動と微地形の関係熱帯モンスーンの影響下にあるラオスにおいては,明瞭な雨期(11月_から_5月)・乾期(6月_から_10月)が存在する.ビエンチャン平野を流れるグム川やその支流河川の雨期と乾期における水位の差は3_から_5mである.グム川は雨期においても河谷から河川水が溢れることは殆ど無い.また,グム川の支流の河川は,雨期には氾濫原一帯が湛水するものの,低位面にまで河川水が及ぶことは無い.なお,サイタニー郡の最北部では急峻な山地部から流入する河川により大量の雨水が流れ込み,低位面がしばしば湛水することがある.ビエンチャン平野の諸河川は乾期の間,狭小な流路を形成しながら氾濫原を流れ,大半は乾燥した状態で細粒堆積物が露出する.4.地形・水文環境と土地利用高位面_から_低位面:ビエンチャン平野では,集落の多くが氾濫原面に接する低位面上に立地する.平野において最も広い面積を有する低位面の大半は天水田として利用されており,一部では他国の援助によってつくられた大区画の灌漑水田が認められる.ビエンチャン平野では河川が穿入蛇行(incised meander)を呈するため,低位面において乾期に稲作を行うためにはポンプと灌漑用水が必要となる.しかし,灌漑域はメコン河沿いやグム川沿いの非常に限られた地域に広がる程度である.なお,これとは別に平野南西部では谷頭を閉塞して用水池を設置するタイプの灌漑域が存在する.また,中位面は平野内に孤立丘の様相を呈しながら点在しており,森林であることが多いが,ビエンチャン郊外では新興開発の対象となっている.中位面は傾斜を有しており,平坦な箇所が少ないために水田としての利用には向かないと考えられる.なお,サイタニー郡域において最大規模のTangon市場は中位面上に立地する.氾濫原面:低位面から氾濫原面にかけての傾斜地は畑地として利用される場合が多い.この傾斜地は雨期の最盛期には湛水するため,乾期のみ利用が可能である.乾期には氾濫原を流れる河川から小規模なポンプを使って畑に散水することができる.氾濫原面は雨期には完全に湛水してしまう不安定な場所であるため,乾期にも土地利用がなされず荒地であることが多い.その一方で,非常に多様な土地利用の見られる場所でもある.浮稲栽培の場として,期間限定の灌漑水田として,塩取りの場として,魚とりの場としてなど,ビエンチャン平野に居住する人々の生業のあり方を考える上で重要なポイントとなる場所であると考える.特に雨期と乾期における河川の水位変動を利用した漁業,灌漑水田の経営については今後,詳細に検討していきたい.

著者関連情報
© 2005 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top