日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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アジア巨大都市における物質負荷問題の現状と課題
*小野寺 真一齋藤 光代谷口 真人
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p. 93

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抄録

はじめに 都市には人口が集中し、物質も集中する(武内ら,1998)。その結果、エネルギーや様々な物質が大量に消費され、廃棄物を排出してきた。その排出量はほぼ都市人口に比例するが、その処理は都市基盤の整備状況に依存するため、排出過程は都市の状況によって異なる。近年急成長してきたアジアの多くの都市では、東京やロンドンでかつてみられた河川や内湾の著しい水質汚濁に直面し、同時に、地下にも汚染物質が蓄積されていると予想される。本発表では、関連の論文をレビューすることによって、巨大都市における地下への物質負荷の現状と課題を見出し、今後の研究の方向性を提案することを目的とする。アジアの巨大都市の特性Jiang et al.(2001)によれば、1995年当時で、100万人以上の人口が集中する都市が世界に285ある中で、アジアには153(53%)も分布する。特に、1000万人以上の人口が集中する巨大都市に至っては、世界に8都市ある中で、アジアには6都市(75%)も集中する。内訳は、東京(首都圏)、大阪(近畿圏)、上海、北京、ボンベイ、カルカッタ、カラチ、ソウル(大都市圏)であり、北京のみが唯一内陸に分布する。また、天津、マニラ、ジャカルタ、ダッカ、バンコクはこれに次ぎ、800万人以上である。バンコクを除く4都市も2010年には1000万人を突破すると予測されている。また、巨大都市の立地特性としては、ほとんどが沿岸域に分布する点があげられる。地下の汚染の現実 日本において、河川の水質汚染は、高度経済成長期最後の1970年代をピークとして低減傾向を示す(環境省, 2000)。これに対して、土壌汚染や地下水汚染はその後次々と問題が明らかにされてきた(環境省, 2000)。例えば、農業流域における硝酸性窒素汚染は1990年代に入って急激に各地で見出されてきた(鶴巻,1992:Terao et al., 1993:田瀬,1995;山本ら,1995など)。また、有機塩素系物質汚染についても特に都市部や工業地域などで報告されている(村岡・豊口,1991:Sanger and Sakura, 1993:Hirata and Nakasugi, 1993:新藤,1996など)。地下の汚染は、河川の汚染や内湾の汚染に比べて後から現れる傾向がはっきりとしている。これは、汚染物質が地下水に到達するまでの時間差と、地下水流動自体に時間を要するためであり、地下水を利用していても実際に無味無臭な汚染物質(硝酸性窒素や重金属など)であれば、なかなか気がつくことができないためであろう。このような日本や欧米で体験してきた現実を、アジアの各巨大都市や今後成長していく都市において、再現することがないように早期の対策が必要とされる。 さらに、不飽和帯に蓄積された汚染物質の例や大気汚染物質の地下への間接負荷の問題も今後遅れて顕在化する点で、問題となる可能性がある。大気汚染物質の組成や量の変化については、樹木や堆積物中に蓄積された微量金属から明らかにされてきており、特に途上国における現状の評価が必要である。複合環境問題への危機を回避できるか? アジアの巨大都市が沿岸域分布することを考慮すると、海への影響評価(富栄養化)を評価していくことも必要である。河川については、観測ネットワークがかなり整備されている(LOICZ, 2000)。ただし、地下水からの栄養塩流出の影響については、十分な調査がなされていないため、評価が必要である。 また、途上国の都市の多くは、地下水の揚水が盛んで、地盤沈下にまで至っている。このことは、地下水汚染を複雑にし、地下水面上の不飽和帯の厚さを増大させることにもなり、より深刻な汚染物質の蓄積を生じる可能性もある。 さらに、海水が浸入にともないHgの溶解度が上昇し、汚染が進行する例や、地下水の汲み上げにともない還元性の水の上昇により、地層中からAsが溶脱する汚染例が報告されている。

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