日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会秋季学術大会
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北海道における企業的生シイタケ生産の経営形態と流通構造
*松尾 忠直
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p. 95

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抄録

1. はじめに
 旧来から生シイタケの主産県として知られている群馬県・栃木県・茨城県の北関東三県などに加えて、近年では、北海道・岩手県・徳島県などにおいて生シイタケ生産量の増加がみられる。しかし、1990年代以降、国内の生シイタケ生産量および生産者数は減少を続けている一方で、大規模に生シイタケを生産する企業的生産組織による生産量は増加している。また、主に中国から輸入される生シイタケは、国内市場において一定のシェアを有するようになってきた。
 このように、国内の生シイタケ生産は過渡期にある。しかし、その実態を明らかにした研究はみられない。本研究では、その構造を大きく変化させつつある生シイタケ生産を対象に、経営形態と流通構造を把握することを目的とした。
 対象地域は、企業的生シイタケ生産の盛んな北海道とした。

2. 企業的生産組織とその生産
 調査対象とした生産組織は8組織で、それらの生産組織はシイタケ関連企業である株式会社K社(東京都)もしくは株式会社M社(群馬県)のどちらかと取引関係を有している。両社は、シイタケ菌とシイタケ菌床の研究開発と生産を行っており、国内のシイタケ産業に大きな影響力を有している。両社は、道内の企業的生産組織にシイタケ菌や菌床を供給するとともに、菌床生産能力を有する生産組織には、菌床の委託生産を行わせている。
 調査対象とした生産組織のうち、有限会社KS社(上砂川町)、有限会社KY社(夕張市)、有限会社KB社(大樹町)、特例子会社MT社(北見市)、有限会社MF社(白老町)は生シイタケ生産のみを行っている。第3セクターKK社(上砂川町)、社会福祉法人MOセンター(上磯町) 、町営MAセンター(厚岸町)は生シイタケと菌床、双方の生産を行っている。8組織の生産量を合計すると、道内生産量(2002年)の41%に達する。

3. 経営形態
 各生産組織を経営主体によって分類すると、企業経営型(5組織)、第3セクター型(1組織)、自治体経営型(1組織)、社会福祉法人型(1組織)の4型になる。
 さらに、各生産組織を従業員の雇用形態によって分類すると、正社員型(1組織)、パート社員型(5組織)、特殊型(2組織)の3型になる。正社員型は、第3セクター型の生産組織が該当する。これは設立の際に、国から雇用助成を受けたため、パート社員を雇用できなかったためである。パート社員型は、容易に労働コストを抑えることが可能であり、企業経営型に該当する。特殊型は、自治体経営型と社会福祉法人型にみられる。自治体経営型では町の臨時採用職員を、社会福祉法人型では知的障害者を雇用している。
 各生産組織を菌床の入手方法によって分類すると、菌床自体を購入する購入型(5組織)、種菌を購入して菌床を自社生産する自社生産型(3組織)の2型になる。自社生産型のKK社、MOセンター、MAセンターでは、菌床生産設備を有している。これは、生産設備を導入する際に、国や日本財団の補助を受けることができたからである。

4. 流通構造
 企業的生産組織によって生産された生シイタケは、道内と道外の双方に出荷されている。道内の主な出荷先は札幌市であり、残りは生産組織が所在する地元市場に出荷されている。道外の主な出荷先は東京都で、社会福祉法人の生産組織だけは名古屋市に出荷している。
 一部の企業的生産組織の生シイタケ流通には、K社とM社が深く関わっている。K社は取引のある生産組織から委託生産させた生シイタケを買い取り、独自のルートで東京市場へ出荷している。M社は、中卸を仲介して大手スーパーへ出荷している。中卸へ出荷する生シイタケは、M社が生産したものと、取引のある生産組織から買い取ったものを合わせて出荷する場合が多い。
 K社とM社がシイタケ菌やシイタケ菌床の販売に加えて、生シイタケの販売も行っているのは、生シイタケの販売によって収益を得るばかりではなく、取引先の生産組織から生シイタケを買い取ることによって、間接的にその生産組織を支援することになるためである。

5. まとめ
 道内で生シイタケの大量生産を行う各生産組織は、K社・M社のどちらかの企業とシイタケ菌やシイタケ菌床の購入を通じて取引関係にある。さらにその一部の生産組織はシイタケの流通においても深い関わりを有している。各生産組織は、出荷先の確保とその価格を維持するために独自の流通ルートを確保している。
 各生産組織は労働コストを低く抑えるため、特に雇用者の選定に留意している。また、菌床栽培という生産方法の導入によって、社会福祉法人の生シイタケ生産への参入も可能になった。
 国の政策や企業の動向をみると、企業的生産組織の農産物生産への参入は、今後、他の農林産物生産においてもみられると考えられる。

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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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