日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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高齢者の平均余命と気候との関係
*北島 晴美太田 節子
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p. 138

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抄録

1.はじめに
 筆者らは,これまで都道府県別平均寿命(0歳平均余命)と気候との関係を,『メッシュ気候値2000』(気象庁)を使用して分析し,_I_期(1923, 1928, 1933)には,男・女の平均寿命と降水量には有意な相関関係がみられることから,降雪量の違いが_I_期平均寿命の地域差に影響した可能性を確認した。_II_期(1955, 1960, 1965, 1970, 1975)には,男・女の平均寿命は,全年を通しての月平均気温(日最高,日最低,日平均気温)と正相関があり,最深積雪と負相関がある。_II_期に見られた平均寿命と気温,最深積雪との相関関係は,_II_期の前半までの全国の状況を反映したものと推察された。_III_期(1980, 1985, 1990, 1995, 2000)には,男女の平均寿命は気候要素とほぼ無相関であった(北島・太田,2004)。
 _III_期には,平均寿命と気候には相関関係が見られないが,高齢者に限れば冬季の気候条件の違いが戸外での活動を制限し老化の進行に影響する可能性があり,高齢者の平均余命は,全ての年齢階級の死亡率を反映した平均寿命よりも気候の影響を受けやすいと考えられる。
 本研究の目的は,高齢者の平均余命が_I_期,_II_期において平均寿命よりも気候条件と関連していたのか,_III_期において高齢者の平均余命は気候条件と関連があるのかを,長期間のデータから明らかにすることである。

2.研究方法
 北島・太田(2004)と同様の資料から,_I_期,_II_期,_III_期について,都道府県別高齢者平均余命分布図を作成し,平均寿命の分布とどのような違いが見られるのか調べた。
 次に,各期間で都道府県別高齢者平均余命は気候要素とどのような相関関係を持つかを検討した。
 さらに,各期間の特徴を詳細に検討するために,13年分の65_から_80歳の平均余命と気候要素との相関係数の変遷を調べ,特徴的な相関関係を示した気候要素について,高齢者の平均余命に及ぼす影響を考察した。

3.高齢者の平均余命と気候要素との相関係数の変遷
 日平均気温(年平均)と平均寿命および65歳平均余命との相関係数(図1)は,平均寿命,65歳平均余命とも_II_期に最も相関が強く,_III_期に最も弱い。_I_期には両者の中間的な値を示す。平均寿命よりも65歳平均余命の方が日平均気温と相関が強い。平均寿命は_III_期には日平均気温と有意な相関関係がないが,65歳平均余命は1985年まで日平均気温と有意な相関関係がみられる。
 年最深積雪と平均寿命との相関係数(図2)は,_I_期に最も負の相関が強く,_II_期,_III_期には次第に相関が弱くなり1990年以降は相関係数が0前後となった。65歳平均余命では,_II_期に最も負の相関が強く,その後次第に相関係数が0に近づく。_II_期,_III_期において,平均寿命よりも65歳平均余命の方が年最深積雪と相関が強い。平均寿命と年最深積雪に有意な相関関係がみられるのは,1965年(男性)あるいは1970年(女性)までであるが,65歳平均余命は1980年まで有意な相関関係がある(図2)。75歳平均余命は1985年まで,80歳平均余命は1990年まで有意な相関関係がみられる。
 以上のように,高齢者の平均余命は,_I_期の最深積雪を除いて平均寿命よりも気候との相関関係が強く,_III_期初めまで気温・最深積雪と有意な相関関係があった。また,高齢になるほど,有意な相関関係が最近まで持続する傾向があった。

北島晴美,太田節子 2004:都道府県別平均寿命の分布の変遷と気候の影響.信州大学山地水環境教育研究センター研究報告,3,53‐75.

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