抄録
1:はじめに 2001年に水防法が改正され、洪水予報河川が指定され、河川管理者は浸水想定区域図を作成し市町村に通知し、市町村長は、これに、避難に必要な情報を載せて住民に周知することになり、2004年10月25日現在で少なくとも361市町村が公表した。しかし、対象河川は全国で約2000あり、整備には多くの課題がある。ここでは、現況、技術的な状況、普及のための課題等を述べる。2:洪水ハザードマップ類分類比較: ハザードマップは多様であり、更に一般的な言い方や個別の定義がある。「ハザードマップ」も「洪水ハザードマップ」も一般名詞とすると、その下に、国土地理院の土地条件図(洪水土地条件図、洪水危険地図)と河川局指導の洪水ハザードマップ(洪水避難地図:避難目的)があることになる。 河川局指導の洪水ハザードマップについては、改正された水防法に基づき指導して、市町村が作成するものであり、内容は「洪水ハザードマップ作成要領解説と作成事例 (財)河川情報センター(2002)」の中に国土交通省作成の洪水ハザードマップ作成要領、関連法令等が載っている。それらを基準として作成されている洪水ハザードマップの名称は、国土交通省の商品名(固有名詞)といってよい。 平成15年3月のこのシンポジウムで上記の国交省河川局の基準で述べた際、(筆者も永く関わった)土地条件図を含めて比較説明した。土地条件図類の多くはこれとは当然別である。両者は、定義、基準、特徴が異なる。土地条件図類は、土地の定性的特徴に基づいて作成され、一部を除き、避難場所情報を載せてない。主な情報は地形学的見地による地形分類、地盤高、過去の浸水情報等であり、地形学の知識で作成される。 洪水ハザードマップ(河川局指導のもの)は洪水避難地図であり、定量的な氾濫シミュレーションや過去の浸水情報を載せ、避難場所などの避難情報を載せて避難に主眼をおき、人命の損失を防ぐことを目的とし、河川工学の知識で作成される。 この二つは水害を減らすという目的では同じであるが、特徴が異り、それぞれ別の発展の歴史を持ち、両者は直接の目的が異なり、見かけと実際の使い方が異なる。本報告では洪水避難地図としての洪水ハザードマップについて報告する。3:河川局指導の洪水ハザードマップの要件 この地図は、「(1)浸水情報、(2)避難情報、必要な関連情報、等を載せて、住民が洪水時或いはそのおそれのある時に浸水を予想される地域からの避難を円滑にできるために必要な情報を載せた地図」であり、さらに「(3)市町村が作成し、(4)公表を前提とする」ことを条件としている。4:洪水ハザードマップの課題4_-_1:作成技術:紙の洪水ハザードマップ、インタネットによる公表、動く洪水ハザードマップ、作成用半自動化ソフトの進歩、繰返し提供するシステム。内水氾濫および都市河川の水害に関する浸水想定区域図作成、3次元洪水ハザードマップ、リアルタイム洪水ハザードマップなど4_-_2:作成に関わる問題:(作成の普及):制度、作成費用、自治体の反応(理解不足。義務でない。財政厳しい。中小河川希望。分り易く。市町村直営で作成。改訂容易、GISデータ。流域単位で広域作成。4_-_3:周知に関わる問題、課題(住民への周知):全戸配布、住民説明会、インタネット、繰返し配布、広報活用。避難訓練。学校教育。携帯電話、水防活動、いつでもどこでも誰でも無料で。5:今後の方向: 洪水ハザードマップの作成は、2005年1月現在「おすすめ」であるが、この義務化、補助金制度。技術的にも制度的にも上述の課題を解決する事が必要。6:最も必要なこと: 市町村の熱意。作成し易くする制度。住民へのPRの繰返し。7:追記:新潟7.13水害も新潟県中越地震も調査した。N市のS川流域:洪水ハザードマップ公表済、調査範囲では住民が知らず、全戸配布でない場合に周知方法に課題が残った。地震により震災ダムが形成、応急策が講じられた。出水すれば洪水。1968年第2十勝沖地震:下北半島での多数のため池が崩壊氾濫。海岸低地に被害を与えた1959年の伊勢湾台風や最近の高松などの高潮、1703元禄地震による九十九里の大津波、1992年インドネシアフローレス島等の大津波など、低地の地形の差異により被害が全く異なった。洪水避難地図である洪水ハザードマップと洪水危険地図である土地条件図を適切に組み合わせて利用することが居住まで考える時に最も効果的である。