抄録
研究目的 JAS法に「有機農産物等の検査認証制度」が2001年に導入され、その生産や流通の安全性に基づいて不適切な「有機」表示を排除し、有機農産物生産の支援策が講じられてきた。しかし、有機農産物の生産農家と生産量は、2003年においていずれも全体の1%以下の水準にある。有機農産物のなかで比較的需要の高い生鮮野菜でも、その生産量はJAS法の施行以来増加し続け2003年に約28,000トンに達したが、野菜全体の国内生産量の約0.2%を占めるにすぎない。このように、有機農産物の生産が伸び悩んでいる現状を踏まえ、本報告は有機野菜のフードシステムの実態とその空間構造を東京大都市圏の事例を中心に明らかにすることを目的とした。加えて、本研究は有機野菜のフードシステムの持続性を検討し、その問題点にも言及する。研究対象 有機野菜のフードシステムは、農家、集荷・出荷施設、流通業(者)、小分け業(者)、小売販売店を中枢的施設にして構成され、生産_-_集荷_-_流通_-_小分け_-_小売販売_-_消費者の一連の流れで捉えることができる。また、中枢的施設の中で農家、集荷・出荷施設、流通業(者)、小分け業(者)はJAS法によって有機農産物を取り扱うための認証を受ける必要があり、そのことが有機野菜のフードシステムを慣行栽培野菜のそれと差別化させるものになっている。本報告は、東京大都市圏の大手スーパーチェーンQIやSなどで販売されている有機野菜を生産している千葉県富里町の成田生産組合を事例にした。成田生産組合は15戸の農家で構成され、1971年に任意組合として発足して以来(1985年に農事組合法人になる)、有機農産物の生産を続けており、日本における有機農業の先駆的存在にある。有機野菜の生産者 成田生産組合の15戸の農家は富里町を中心に下総台地に分散して分布し、そのことは有機農業が点的に展開していることを物語っている。各農家は1971年から10年間で、所有農地すべてを有機圃場にしてきた。それぞれの有機圃場は1haから3haで、4カ所から8カ所に分散している。各農家は周辺の慣行農地と区分管理や輪作体系による土づくり、あるいは年間農作業の平準化などを意識しながら、有機圃場での野菜栽培を組織化し、有機JASの認証を受けている。有機野菜の流通 成田生産組合で生産された有機野菜は、すべて有機農産物流通業者Aの集荷・出荷施設に集められる。この施設は富里町に立地し、有機農産物を取り扱うための有機JASの認証を受けている。ここに集められる有機野菜は、成田生産組合だけでなく、全国の契約農家からのものも少なくない。これは、有機野菜の収穫時期の地域差を利用して、特定の有機野菜をできるだけ長期間にわたって東京大都市圏の消費者に届けるためである。また、この施設では小売店の店頭に並べるための小分け作業も行われており、小分けされた有機野菜は東京大都市圏の特約販売店に出荷される。有機野菜の販売業者 流通業者Aから出荷された有機野菜は、大手スーパーチェーンのQIやSなどで販売されている。有機野菜が販売されているQIの分布をみると、東京の山の手などの住宅地にかたよりがあり、有機野菜に対する有機野菜の需要が限定されていることがわかる。また、QIの店舗ごとにも有機野菜の需要に地域差があり、流通業者Aはそれらの地域差を考慮し調整しながら有機野菜を出荷している。有機野菜のフードシステム 有機野菜は栽培農家と集荷施設、あるいは出荷施設や流通業者へは単一チャンネルで流通し、その結びつきは有機JASの認証制度によって強固なものになっている。しかし、単一チャンネル流通は生産_-_集荷の選択肢を限定し持続的でない。他方、販売店は多くの流通業者から有機農産物を集め、有機野菜は多チャンネルで流通し、持続的なものになっている。