日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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水災害軽減と土地利用:ハザードマップの役割
*水谷 武司
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p. 50

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抄録
水災害の軽減対策 自然災害は多様であり,効果的な対応策はそれぞれの特性に規定されて多様である.洪水・土砂災害については,発生の時期・場所に大きな不確定性はあるものの,基本的には水や土砂はより低きに向かって運動し,その速度(破壊力)は地表面勾配に規定され,微起伏の配列などに支配されて滞留・停止するので,その危険度・危険域は地形によって決められるところが大きい.このような性質の災害に対しては,可能なかぎり危険地への居住を避け,危険の種類・程度に応じた居住様式や利用を行うのが基本となる対応である.利用する場合にはそのリスクを意図的に見込んでいなければならないし,人命への危険が大きい場合,災害時避難は過渡的な対応となるべきである.防災的土地利用管理 防災的に望ましい土地利用をと言うことは容易であるが,その実現はきわめて困難である.防災だけでは社会は成り立っていかないし,広い氾濫原の利用規制は不可能である.しかし,明らかな危険地,たとえば急斜面下・狭い谷底低地などは,その利用の抑制が積極的に図られる必要がある.法的規制は直接的であるが,危険地の利用にコストを賦課するという経済的な誘導の方策もある.被るであろう被害や回避のための支出は,その土地の利用が与える便益を得るためのコストとして内部化されねばならない.安易な経済的救済は防災的に望ましい土地利用の実現と矛盾するところがある.防災土地利用管理の基礎は地域災害危険性の評価・危険域のゾーニングである.災害危険性の評価 河川洪水については,低地の地盤高や微地形の分布が危険性を決める基本素因となり,この地形の場に種々の確率規模で降雨や洪水を入力して,数値流体計算により危険域ゾーニングを行うことができる.ただし,どこで破堤させるかによって氾濫域は大きく変わることが多い.谷底平野や侵食性の平野のように地形なりに浸水域が広がる場合にはゾーニングが容易である.対策に結びつけるためには,浸水域だけでなく洪水流の流体力(破壊力)も示す必要がある.土砂の運動も流体計算で再現でき,土石流の危険域を示すことが可能である.斜面崩壊の危険性はその性質上,安全率を大きくとり簡単な地形的条件に基づいて示さざるを得ない.ハザードマップ 災害の危険度・危険域を示す地図の作成・公開は,地域防災対策とりわけ防災土地利用管理の基礎である.現在作成されている広報用ハザードマップは,浸水域などの危険域および公共の収容施設の位置を,作成の設定条件および危険の程度の情報を大きく欠いた状態で示す図が大部分である.広報マップは危険の存在とその程度を提示して対応手段の選択を求めるものであって,避難対応はその一つにすぎない.人命への危険が大きい場合やほとんどない場合,避難は最も有効な対応とはいえない.ハザードマップは限られた設定条件の場合を示すものであって,これ以外の状況はあり得るし,また表示危険域以外の安全を保証するものでもないことを知っている必要がある.
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