日本地理学会発表要旨集
2005年度日本地理学会春季学術大会
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火山灰稀産地域における,ほぼ同一時期に形成された河成段丘面の分布形態の比較
北陸地方東部の河成段丘群を事例として
*中村 洋介岡田 篤正竹村 恵二
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p. 51

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抄録
我が国でも有数の第四紀の地殻変動域である飛騨山脈と富山湾とに囲まれた北陸地方東部には,北東_-_南西走向の逆断層群が南北約100km,東西約150kmの範囲にわたって発達する(活断層研究会,1991).これらの活断層の第四紀後期における変位速度を算出するうえで,その良好な変位基準である河成段丘面はその重要な指標の1つである.しかしながら,本地域は段丘面の編年の指標となる火山灰層が段丘面構成層中や被覆土壌層(ローム層)中に肉眼で認められうえ,自然露頭に乏しいために,段丘面の編年が非常に困難な地域である.筆者らはこれまで,段丘面被覆土壌層の連続採取(ボーリング掘削による採取を含む)試料から肉眼で確認することのできない広域火山灰を検出することによって,本地域における河成段丘面の編年・対比を行ってきた(中村,2002;中村ほか2003a,2003b;中村・岡田,投稿中;中村,投稿中).一般に,広域火山灰等の年代試料が乏しい地域において河成段丘面の分類・編年・対比を行う場合には,空中写真判読によって段丘面の開析形態,分布,現河床からの比高,ならびに勾配等を手掛かりにして記載を行う.北陸地方東部に分布する河成段丘面は,筆者らの一連の研究の遂行以前に,主として空中写真判読に基づき,「日本の海成段丘アトラス」(小池,町田編,2001),「第四紀逆断層アトラス」(池田ほか,2002),「活断層詳細デジタルマップ」(中田,今泉編,2002)等によって,分類・対比がなされている.また,第四紀逆断層アトラスや活断層デジタルマップでは,上述のような手法で推定された河成段丘の形成時期をもとに,活断層の平均変位速度が算出されている.本研究では,広域火山灰の層位や上下の段丘面との関係より,ほぼ同時期に形成されたと考えられる段丘面を比較し,分布高度,比高,勾配,開析程度,段丘構成層ならびに被覆土壌層の層厚,ならびに段丘礫の種類,平均粒径,ならびにその風化程度等にどれほどの相違が認められるかを整理した.今回は,本研究地域で最も広範囲に分布し,各平野間の段丘面同士の良好な対比基準となっている,_VI_面(中村・岡田,投稿中)の比較を行った._VI_面は,DKP降下直前に形成された段丘面で,本研究地域には金沢平野の小立野面を始め,合計10ヶ所に分布する(表1).表1よりほぼ同時期に形成された段丘面であっても,分布高度,勾配,段丘面構成層の層厚,被覆土壌層の層厚,段丘礫の種類,ならびにその風化程度には,地域によってばらつきが認められる.一方,現河床からの比高,段丘面の開析程度,段丘礫の平均粒径には,地域毎のばらつきが少ない.ただし,他の時代(_VI_面形成前後2_-_3万年間)に形成された段丘面でも,これらと同等の値を示す場合があり,それらとの区別を行なう際には細心の注意が必要である.続いて,空中写真判読を中心とした地形面の分類・対比の難しさについて検討する.表2に,各先行研究による,本研究における_VI_面相当の段丘面の形成時期に関する推定結果を記す.なお,海成段丘アトラスにおける「ftn」(nは2_-_6までの数字)は,MISnを示し,第四紀逆断層アトラスならびに活断層デジタルマップにおける「L」は,おおよそMIS2の時期を示す.本研究で火山灰層序から求めた_VI_面の形成時期(MIS3_-_4)に近いものは,日本の海成段丘アトラスによって推定された徳万新,広野,石垣,ならびに前沢の4地域のみである.その他に推定された値は,2万年前_-_MIS6までと非常に大きなばらつきが認められる.また,各既存研究間における同一の段丘面の年代推定も有意に差が大きい.
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© 2005 公益社団法人 日本地理学会
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