抄録
1.持続可能なまちづくり 近年、都市計画の用語で、サステイナブル・コミューニティー、コンパクト・タウンのような、持続可能な発展の発想に関連するものが多く使われている。この発表では、このような概念が含める要因をドイツのフライブルク市にあるヴバーン地区の事例で確かめ、持続可能な開発の社会的側面、環境的側面とその間の関連を確認する。2.ヴォバーン地区の概要 ヴォバーン地区は中心市街地からバスで15分ほどはなれたところに位置し、フランス軍隊の基地の跡地を再開発した団地である。面積は38haで、目標人口が 5000人、またオフィスや商業施設で600人が働けることが予想されている。1995年に都市計画コンペが行われた。市内に近いことを考え、3・4階建ての集合住宅を中心にした密度の高い計画が選ばれた。また、軍人の宿舎のうち10ヶ所を残し、学生寮と自治制独立住宅協会(SUSI)が利用することになった。3.ヴォバーン地区の開発概念 この地区を開発した際、6つのテーマに重点がおかれた。計画段階からの市民参加、生活のなかで必要な移動が短距離であるコンパクトな町、出会い・コミュニケーションが可能な場所の提供、多様な、柔軟性のある建築スタイル、自動車用の町ではなく、人間用の町、省エネ・省資源を徹底した町であることを目指した。 それぞれの重点に対する仕組みは市の都市計画に設定されているもの、つまり拘束力のある部分、市民団体のフォーラムヴォバンが提案したもの、そして各住民のアイディアという、3つの部分からなっている。都市計画で設定する部分を最低限に押さえ、住民が決定できる項目を可能なかぎり増やす方針で進められたが、詳細な規制が特徴であるドイツの都市計画システムの枠内で、柔軟性の限界があった。4.社会的側面 社会的側面の取り組みとしては、計画段階からの市民参画が注目された。新しい開発に関心を持つフライブルク市の市民が1994年にフォーラムヴォバンという団体を設立し、市民参加の調整機関として市により認定を受けた。その時点から、住民の代表として市を交渉を続け、開発の第一段階が終わった現在でも、地区の市民活動の中心になっている。また、新しい居住文化を生み出すため、共同住宅の開発が積極的に誘致され、土地販売の際、共同住宅を計画するグループが優先された。その結果、第1段階の422戸のうち、221戸が共同住宅として建てられた。5.環境的側面 環境に関する取り組みでは、特に交通コンセプトが注目を浴びている。各家に駐車所を設けず、自動車を団地の入り口にある駐車場に入れる形式をとっている。また、自動車を所有しない住民で契約を結び、駐車場設置の義務が免状される。公共交通手段として、中心市街地から路面電車が引かれた。 その他に、省エネ建築、雨水の再利用など、様々な仕組みと実験的な技術が利用されている。6.ヴォバーン地区の問題点 実験的な側面を持つヴォバーン地区は、様々な課題を抱えている。一つは、その独特な人口構造である。まず、新しく開発された団地の特徴である年齢層の偏りは強く表れている。住民はこのような実験的なまちづくりに関心を持つ人がほとんどで、共通する政治的・社会的発想が強く、そのためまちづくり活動が積極であるが、一方、そこで排他的な側面も否定できない。その他に共同建築に関係するトラブル、駐車場設立や広場の設定などに関する市と住民の対立など、特に第1開発段階では様々な課題が登場した。