日本地理学会発表要旨集
2006年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 211
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中国の農業構造調整下における漢方生薬流通の現状
河北省安国市を事例に
*王 岱
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抄録
I 研究の目的
 1999年以降,中国では,農民所得の向上を目指すとともに,WTOの加盟に対応するための農業構造調整が実施されてきた.農業構造調整下での農業生産部門において,主に穀物を中心とした食糧作物から,より高い収益をもたらす商品作物への転換調整が急速に展開されてきた.国内の転換調整とともに,グローバリゼーションに対応すべく農産物および関連製品に対する品質管理の強化も実施されてきた.それらによって,農作物の生産が多大な影響を受けるとともに(王,2005),加工及び流通過程にも変化が現れた.
 本研究は,河北省安国市における生薬流通業を取り上げ,中国における生薬流通構造の変容,とりわけ農業構造調整下における生薬流通の実態解明を目的とする.

II 中国国内における生薬流通構造の変容
 1954から1984年までの中国において,生薬の専売制が実施され,国営「生薬公司」による生薬流通の統制が徹底されていた.1984年以降,生薬の自由売買が認められ,取引の場として「漢方生薬専業市場」(以下「専業市場」と略す)が設置された.生薬流通における「生薬公司」の統制構造は次第に破綻し,仲介業者による「専業市場」をつなぐ流通ネットワークが形成された.
 2006年現在,中国国内において,中央政府の認定を受けた「専業市場」は17箇所存在する.そのうち,河北省安国市にある「東方薬城」と長江中下流域に位置する「亳州市場」の規模が最も大きい.「専業市場」は国内における生薬の流通拠点として,市場価格の形成など重要な役割を果たしている.また,沿海,辺境に位置する「専業市場」は国内外の生薬市場をつなぐ架け橋にもなっている.

III 安国市における生薬流通業の発展と現状
 建国以前から,豊富な生薬資源,高度な加工技術,便利な交通条件などに恵まれ,安国市における生薬流通業が発達していた.生薬の専売制が廃止されてから,1985年に,国内最初の「専業市場」が建設された.また,急速に拡大する取引に対応するため,1994年に,当時,中国における最大面積の「東方薬城」が開業した.「東方薬城」は北京・天津大都市圏にある多くの製薬企業の原料調達地となり,国内の生薬流通において集散機能を果たしてきた.
 2000年,WTO加盟に向けて,グローバリゼーションに対応すべく品質を強化する法規が新設され,生薬流通事業を経営する許認可条件,申請手順などが明確化された.安国市の生薬仲介業者は経営を維持するため,生薬の出荷・運搬・貯蔵の各過程における環境整備,人材確保などを推進し,製薬企業と供給契約の締結も積極的に行ってきた.一方,小規模で資金力のない業者は,厳しい認可基準に対応できなくなり,業務停止が命じられた.

IV まとめ
 中国における生薬流通構造の変容は,国内外の要請による農政転換の影響が大きい.とりわけWTOの加盟に対応した農業構造調整が,安国市における生薬流通業の経営水準の高度化をもたらしたが,小規模な仲介業者は厳しい経営環境に追い込まれた.国内の政策転換のみならず,グローバリゼーションは安国市における生薬流通業の変容を加速する要因の1つになっている.

文献:王岱. 2005.「農業構造調整下における中国河北省鄭章村の生薬生産」.『日本地理学会発表要旨集』NO.69:71.日本地理学会.
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© 2006 公益社団法人 日本地理学会
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