抄録
1.はじめに 山形盆地西縁断層帯は,南北約45kmの長さを有する.地表の断層の分布形態(寒河江川を境とする走向の変化と,断層トレースの不連続)から,北部と南部とに分けられる.地震調査研究推進本部(2005)は,最新活動時期を6,000年前以降,活動間隔が3,000年で,1回の変位量を4_から_5mとした.これらは,南部と北部が一度に活動すると想定した時の値である.南部と北部の活動の同時性や,詳細な変位地形に関する情報は明らかでない.活断層の評価をするためには,トレンチ調査に加えて,断層に沿ったより多くの活動性に関する情報が必要である.本研究では,断層帯南部を対象として,完新世地形面の変位に注目し,最近の活動を明らかにすることを試みた.2.方法 詳細な空中写真判読と現地調査により,活断層の正確な位置と完新世地形面を変位させる微小な変動崖を認定した.完新世の地形面は,小崖や傾斜,面の広がりや現河床からの比高の違いにより,複数に区分される.そして,古い地形面にみられる変位量が新しい地形面の変位量より大きい場合には,完新世に変位が累積しているとみなすことができる.1回の断層活動による変位量は,断層の末端と中央部などを比較した場合,異なる値を示すことも考えられる.よって,離れた場所で新旧の地形面の変位量が同じであるときには,_丸1_変位が累積していない _丸2_1回の変位量が場所によって異なる,という2通りの場合が想定され得る.本研究では,近い場所では1回の変位量が変わらないと考え,同じ河川沿いなど,ごく近傍に発達する地形面の変位量同士を比較することで,変位の累積を検討した.3.結果 断層帯南部は,雁行配列する寒河江-山辺断層と村木沢断層とにわけられている(八木ほか,2001).しかし,比高1-2mの低断層崖が寒河江川以南で連続して認められる.よって,断層帯南部は,一つの連続した断層であると考えられる.変位基準となる完新世段丘面は,L3-1_から_L3-3面に区分される.L3-1面は,最終氷期最盛期の地形面(L1,L2面)より下位に発達する.L3-2,L3-3面は,L3-1面より下位の現河床に近い位置に発達している.さらに現河床との比高が数m以下であることから,完新世後半の地形面と推定される. 寒河江_から_山辺間では,山麓から数百m離れた位置に一条の断層が連続し,L3-3面までを変位させている.山辺_から_村木沢では,3条の断層が並走しており,最も新しい変位は,盆地側の断層に沿って認められる.村木沢から南では,断層線が2条に分かれて分布する.山地側の断層は,L3-1面を変位させいているが,L3-2面以下の地形面に変位は認められない.一方,盆地側の断層は,最新のL3-3面までを変位させている. このように,断層帯南部では,L3-1面からL3-3面までの完新世段丘面に断層変位が認められる.L3-1面の上下変位量は,約3.5_から_4mである.また, L3-2面,L3-3面には,約1.5_から_2mの上下変位が認められる.L3-1面は,L3-2,L3-3面の変位量より有意に大きな値を示している.一方,L3-2面とL3-3面の変位量は大きく変わらないので,L3-2面形成後に変位は累積していないと考えられる.以上のことから,山形盆地西縁断層帯南部は,L3-1面形成以後に2回活動し,最新活動はL3-3面形成期以降と考えることができる.断層が並走する場合には,それぞれの断層が異なる時期に活動を行っている場合が考えられる.したがって,最新活動を検討する際には,並走する断層がどの地形面を変位させているかという認定が重要である. 完新世地形面の変位を詳細に調査することにより,最近の断層活動に関する有用な情報を得ることができる.今後は,地形面の年代を得た上で,トレンチ調査等の活動時期と比較する.そして,東北地方の主要活断層帯においても同様の調査を実施し,各断層帯の完新世の活動性を明らかにしていく予定である.