抄録
はじめに:東北学院大学における地理学の系統的な教育は、2005年3月までの40年間は文学部史学科において、これ以後は教養学部地域構想学科において実施されている。史学科から教養学部に組織替えがなされることを契機に、本学における地理学分野の教育研究に関する考え方を大きく転換することが可能になった。とは言え、地理学分野のみで新しい学科が設立されたのではない。ここでは、地域構想学科における地理学に関連する教育戦略を、地理学関連分野の教員はどのように思考しているのかを報告したい。もとより、本学科は発足して1年足らずの未完製品である。今後、数年で学科の輪郭も地理学の役割も自ずから明らかになると思うが、ここではむしろ、「どのようにしたいのか」という野心的な意味も込めておきたい。その際、教育・研究の目標レベルの設定、学生獲得、卒業後の進路、学科内隣接分野との連携などの観点で報告する。 史学科の地理学:2004年度までは、史学科の1分野として、「史学科は、歴史学と地理学からなる複合学科で・・・」と明確に位置づけされ、授業科目数も類似他大学の地理学教室にひけをとらないものが整備されていた。史学科新入生の9割以上は地理学以外の専攻を希望しており、受験生からの要望は歴史系諸専攻に集中していた。ただし、3年進級時には毎年2割以上の学生が地理学関連分野に転向する実体もある。歴史系への決別と地理への転向は、様々な失望と新たな気づきとの双方が含まれている。なお、史学科は2005年度から歴史学科に改称している。地域構想学科の地理学:新学科は、教養学部が言語文化・情報科学・人間科学・地域構想の4学科体制になったことで発足した。学科は、「人と自然のかかわり」「生涯にわたる健やかな生活」「地域社会を支えるもの」の3領域からなり、18名の教員と学年100名の学生で構成される。領域に地理学の文字はないが地理学にルーツに持つ8名の教員がいる。 これらの教員が指向する学科の地理学像を略述したい。本学科が目標とするレベルは、いわゆる拠点大学のそれとは異なり「形式論的な意味での地理学にはこだわらない(専攻・科目の名称、地理学徒の育成などの意味で)ものの、地理学的な発想・調査法、地図を含めたツールとしての地理学(実質的に地理的な意識を醸成する)は大いに用いてゆく」である。ただし、地理学を冠した講義科目はごく僅かしかないので、地理好きな受験生に、こうした考え方は伝わりにくい弱点も持つと思われる。この点は今後議論されるだろう。新学科の出口論は、「現場の人々と汗を流して働ける云々」といった抽象論でしか話ができない。ツールとしての地理学的な素養が世間的に役立つことは理解できるが、それを持つこと自体が就職活動時にどう役立つかは未知数である。そもそも地域構想学科という名称自体、そのままで世間がイメージを作れるものではない。そこで、地域・地理学的ツール・構想をつなげて、各教員が学生と地域に様々な仕掛けを行って、学科の認知度を高めて、学生の資質育成や地域への浸透を図ることが求められる。この際、GISは表計算や図作成ソフトと一体的に運用されて、地理的問題解決法の有力なツールとなる。本学では地理という言葉より「GIS上で」という言葉の方が頻繁に飛び交う。例えば、教育・研究・実習・地域連携の実験フィールドとなる拠点地域を設定し、そこで集中的に様々なアクションを行う。このために産・学・官連携の組織化や、民・官では整備しにくいが必要不可欠な地域情報の整備などを行う。これらをGIS上で運用して、「地図上で地域を考える」可能性のある社会・福祉・地域スポーツなど隣接分野との共同作業などを推進することなどを模索している。この模索の果てに、従来の形式論的な地理学をも踏まえた新しい「地理学」的な領域が形成されていくのかもしれない。