日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S201
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日本における観光空間の現代的諸相
*呉羽 正昭フンク カロリン池永 正人佐藤 大祐
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抄録

1.シンポジウム開催の経緯と目的
 本シンポジウムのオーガナイザーが中心になって,2003年に日本地理学会に「観光地理学研究グループ」を立ち上げ,活動してきた。2004年の秋季学術大会では,「日本観光のグローバル化」と題するシンポジウムを開催した。そのシンポジウムでは,グローバル・ローカルな視点から日本人による海外旅行と,外国人による日本旅行の空間的特徴を幾分なりとも明らかにすることができた。
 ところで,日本においては,バブル経済期にリゾート開発ブームが生じた。リゾート法関連の開発計画の多くは白紙に戻されたとはいえ,新たな観光空間の形成がみられたことも事実である。しかし,バブル経済崩壊から10数年が経過し,バブル期やそれ以前とは異なった観光の空間的特徴が現れてきたと思われる。それは,近年の観光行動形態の変化と密接に関連していると考えられる。さらに,わが国では,今日,外国人観光者が急激な増加傾向を示している。とくに,政府によるVisit Japan Champagneを中心とした外国人旅行者誘致戦略は,インバウンド・ツーリズムの発展に拍車をかけている。こうした外国人観光者の増加は,現代日本の観光空間を特徴付ける大きな要因のひとつになっている。
 本シンポジウムでは,現代日本における観光空間の諸相を解明することを目的とする。具体的には,(1)自然公園における観光空間の特徴とその変容,(2)マリーナやスキー場といったリゾートの変容,(3)外国人旅行者による日本での観光行動空間について取りあげ,現代日本における観光空間の特徴をさまざまな空間スケールから明らかにする。
2.自然公園における観光空間
 日本における近代以前の観光空間は,主として温泉と宗教に基づいていたが,近代以降は,観光空間は多様化してきた。たとえば,観光資源として自然景観が重要視され,国立公園制度が誕生した。しかし,山岳道路開発などの観光リゾート開発が進行した結果,環境破壊やオーバーユースなどが問題となっている。一方で,魅力的な自然・文化景観などが整備されずに残されている例も多い。さらに,近年の世界遺産登録は,観光空間における新たな変化を生じさせている。これに関して,雲仙および熊野の事例をもとに,自然景観の評価,観光政策による表象の変化について報告する。
3.野外レクリエーションによる観光空間
 また,明治期に外国人が日本に持ち込んだ文化である野外レクリエーションが発達すると,さまざまな観光施設が開発されるようになった。マリーナ,スキー場,ゴルフ場などがその典型例である。これらの施設でなされる野外レクリエーションは,特異な設備を必要とするという側面で共通し,それはリゾート開発における格好の素材となった。しかし,資本投下型の開発であり,また投機的な性格が強く,流行に左右されやすいという側面も有している。本シンポジウムでは,マリーナも含めた沿岸観光空間の変容,スキー場開発の停滞と諸問題について報告し,わが国のリゾートの特徴を再検討する。
4.外国人旅行者の観光空間
 明治期から昭和初期には,外国人が日本における観光空間に大きな意味を有していた。しかし,その後は日本人の観光大量化によって,その意味は減じてきた。近年,その意味は再び重要になりつつある。近年,韓国,台湾,中国,アメリカ合衆国から日本への旅行者数は増加している。しかし,彼らの観光に対する嗜好は日本人のそれとは異なっており,この側面では,新たな観光空間が編成されつつあると考えることができる。しかし,日本を観光目的で訪れる外国人旅行者の行動パターンについてはこれまで解明されてこなかった。今回は,欧米人による瀬戸内観光,中国人による観光行動空間について報告する。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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