抄録
日本は、1960年代の産業(経済)中心の政策によって水俣病、イタイイタイ病、新潟水俣病、四日市喘息で代表される4大公害に苦しんだ経験を持つ。日本最大の石油化学コンビナートが立地した四日市地域は、大気や水環境の破壊だけでなく、人間を含む生態系の命が奪われ、社会システムの崩壊にまで及ぶ負の遺産である大気汚染の公害で苦しんだ地域であった。
四日市公害から学ぶ「四日市学」は次の四つの側面からアプローチするものである。(1) 四日市公害は解決済みの過去の問題ではなく、現在進行型として存在している環境問題であり、命の尊厳とは何かを問う「人間学」、(2) 過去の公害から未来の環境快適都市へ転換をはかるため、環境と経済との持続可能な社会システムを提案する「未来学」、(3) 四日市公害を経験していない次世代への問題解決型・体験型教育を可能とする「環境教育学」、(4)東アジアの韓国、北朝鮮、中国、極東ロシアをはじめ、東南アジアのタイ、ベトナム、マレーシア、インドネシアなどの大規模産業団地で見られ、かつて日本の四大公害の複合型ともいえるアジア地域の公害問題において、四日市公害の教訓を活かした国際環境協力のあり方を探る「アジア学」として位置付けられる。
本稿では、特に、実践的環境教育のツールとしての四日市学について考察する。環境教育学の根底には、環境倫理(正義)側面から接近する人間学的考察がある。「四日市学」は、四日市喘息患者が社会的弱者であることを明確にし、彼らが不正義な社会システムから生み出された被害者であり、その生存権を守ることによって正義の回復をはかる方法論的考察である。すでに先達たちが行ってきた疫学的研究を再評価し、環境問題に対する哲学的、倫理的側面に、法学的・経済学的・文化的・環境地理学的研究を加え、学生に問題解決型・直間接体験ができる実践的環境教育を目指している。
四日市公害から学ぶ「四日市学」は、四日市公害を体験していない学生に四日市公害の過去・現在を理解させ、未来の環境快適都市をめざす人材育成を担う環境教育学である。