日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: S405
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持続可能な開発のための教育と地理教育における環境問題
環境教育モジュール’Focus on Risk’が提起すること
*梅村 松秀
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キーワード: ESD, 地理教育, PLT, Focus on Risk
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抄録

1.論者の課題意識
 日本政府の提唱のもと、国際的な行動計画となった「持続可能な開発のための教育の10年」(DESD)に対するNGO・民間部門の動きに比し、公教育部門における反応はいまだ低調である。論者は、ESDを広義の環境教育ととらえるとともに、地理教育におけるESDをふまえた環境教育に対する視点の提起が地理教育関係者に課された課題であると認識する。本発表では、ESDの理念と地理教育、米国「質の高い環境教育基準」にもとづく環境教育プログラムPLTについて、本シンポジウムテーマと関連しての公害・環境問題に対応した中等教育対象モジュール’Focus on Risk’の概要を素描することを通して、ESDへの地理教育の視点づくりの手がかりを提起したい。

2.ESDの理念と地理教育
 ESDの概念や定義は流動的であるが、角田はESD推進国際実施計画案にもとづいて(1)価値観の教育であること(2)すべての人々のものであること(3)より質の高い教育を求めることの3点をESDの三原則としている 。またESD-Jにおける報告や欧米の地理教育においては、広義の意味での環境教育としてとらえているように思われる。こうしたことから地理教育におけるESDの具体化とは、少なくとも地理(社会科)教育における価値観の扱い、地理教育における質の高い教育とは、そして環境教育に対する視点の明示が求められていると認識する。

3.ESDにもとづくNAAEEの基準
 ESDのもとでの環境教育は、先のような理念をふまえた基準(スタンダード)の提示が鍵をなすことと思われるが、日本において共有できる基準が明確になっているとは言いがたい。一方、米国の場合、NAAEE(北米環境教育連盟)による「質の高い環境教育のためのガイドライン」が環境教育プログラムの指針をなし、農務省と米国森林財団による支援のもと発展してきた環境教育プログラムProject Learning Tree(PLT)は、NAAEEのガイドラインに適合した最初の環境教育プログラムとして知られる。76年の発足以来、レビュー・改定・評価を経て、2006年の大改定版、”Pre K-8 Environmental Education Activity Guide”は、NAAEEによる2006年度地球規模の環境教育への貢献賞の対象となった。PLTガイドは最初に、複雑な環境問題に対して若者が、実体験的、学際的アクティビティを通して、「何を考えるかというより、どのように考えるか」を学ぶことを支援することにあるというフレーズを記す。角田はそれを踏まえての特徴を構成主義、全体言語、協同学習、問題解決学習の4項目とする。

4 .中等教育対象モジュール’Focus on Risk’ について
 温暖化問題をはじめとして環境問題は、いまや人類共通の課題であり、一人ひとりによる問題の認識と行動変容なくして解決できないという認識が広まりつつある。その意味でESDは、すべての人々が、すべてのステージにおいて、公式、非公式を問わず、多様な教育アプローチをとおして行動変容につながる教育の機会を生かしつつ、具体的行動につなげていくプロセスでもある。一方、水質汚染や大気汚染のような公害・環境問題に対して、どのような対応を環境教育プログラムは提示できるのだろう。PLTは中等教育段階対象の’Focus on Risk’において、市民が日常生活で遭遇するリスク問題として対応するすべ、すなわち批判的思考と意思決定スキルの習得を教育的内容として提示する。これらはわれわれの地理教育が担うべき分野ではないとしても、ESDのもとでの教育の役割、そして地理教育における公民的資質を評価する手がかりとなるに違いない。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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