日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 301
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スウェーデンにおける都市構造の変化によるCO2排出抑制に関する研究
*山下 潤
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抄録

 1.はじめに
 環境分野でデカップリングは,環境負荷の増加率が経済成長の伸び率を下回っている状況をさし,特に,経済が成長する一方で,環境負荷が減少する状況を絶対的デカップリングと称するが(環境省,2003),温室効果ガスの1つであるCO2排出量で環境負荷を表した場合,近年スウェーデンは,この絶対的デカップリングを達成しているといえる(図1).従来の研究で,このような絶対的カップリングを促した環境政策が検討されているが(小沢,2001),地域政策と地域的な構造変動の関係は十分に議論されていない.すなわち都市機能の分散化政策といった地域政策を実施後に地域構造が変化し,その結果,CO2の排出抑制といった環境負荷の軽減がもたらされるが,従来の研究では,このような地域政策と地域構造の関係が明示的に示されていなかった.この点に鑑み,本報告では,地域構造の変動を明らかにした上で,構造変化によってもたらされるCO2の排出抑制に関して検討を加えることを目的とする.
 2.研究方法
 以下の手順で地域構造の変化によるCO2の排出抑制への影響を検討する.まずスウェーデン全土を対象とし,県(län)単位で,温室効果ガスに影響を及ぼすと考えらえる要因を抽出する.その際,一人当たりのCO2排出量を従属変数とする回帰分析を用いて,各要因の影響を吟味する.
 ついでストックホルム大都市圏を対象地域として,地域構造の変化によるCO2排出量への影響を詳細に検討する.その際,県別の分析で抽出された変数等を用い,同都市圏内の市区町村(kommun)を単位として回帰分析を行い,CO2排出と都市構造の変化の関連を明らかにする.さらに,回帰分析の結果としてえられた相関行列と共分散構造分析を用いて,各変数間の連関についても検討する.
 3.研究結果・考察
 21県を対象とした回帰分析の結果から,公共交通機関の利用状況(図2)や自動車の保有状況等がCO2の排出に影響を与えていると考えられる.なぜなら,各県ごとの一人あたりのCO2排出量を従属変数とし,一人あたりの公共交通の利用距離や,一人あたりの自動車保有台数を独立変数とした単回帰分析の結果は,それぞれ5%水準で統計的に有意であり,各独立変数による説明率は各々28.8%と31.5%であったからである.さらに各独立変数の標準偏回帰係数も5%水準で統計的に有意であり,その符号は各々負と正であった.このことは,公共交通の利用が減るほど,逆に自動車保有台数が増えるほど,CO2排出量が増加することを意味し,この点は,従来の研究結果と合致する.
 4.おわりに
 本報告で,スウェーデンにおける県別のデータを用い,マクロスケールで,公共交通機関の整備とその利用の差異という地域構造の差異によるCO2排出への影響を示した.くわえて市町村単位というミクロレベルでの経年的な都市構造の変化によるCO2排出への影響も検討する必要があることも指摘する.

 参考文献
 小沢徳太郎2001.スウェーデンの環境政策:持続可能な社会への挑戦.環境技術30(3):178-182.
 環境省2003.『循環型社会白書 平成15年版』ぎょうせい.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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