日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 304
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SEMによる歴史的景観保全に対するWTPの意識構造分析
*村中 亮夫, 中谷 友樹
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抄録

I はじめに
 古都の歴史的景観は,文化財指定の神社仏閣のみならず,文化財指定外の伝統的な木造建築物の町家や碁盤目状に整備された町割によって構成されている.この歴史的景観は,都市開発や社会変化,人為的災害,自然災害による喪失のリスクを常に抱えている.しかし,歴史的景観の保全に関する議論では,都市開発や社会変化に関わるリスク要因に着目したものがほとんどである.
 これまで,都市開発や社会変化のリスク要因から歴史的景観の損失を避けるべく,町並みを保全する法制度の整備や基金の創設の取組みが行われてきた.とりわけ,経済学や社会工学の領域で研究が進められている仮想市場評価法(CVM)を用いた経済評価研究では,歴史的景観,特に文化財指定の建築物保全に対する個人の支払意思額(WTP)から,保全で生まれる便益が各評価対象財についてどの程度あるのかが検証されてきた.
 一方で,歴史的景観喪失のリスク要因として,社会的要因のみならず人為的災害や自然災害があげられるが,それらとWTPとの関連性に着目した既往研究はない.これは,(1)歴史的景観が私的財や公共財としての面を持つ多様な構成要素によって構成されているため,WTPを規定するリスク要因をイメージしにくいこと,(2)歴史的景観は多くの国民を惹き付けると同時に地域住民の生活の一部でもあり,WTP表明に対する歴史的景観の価値やリスク認識の与える影響も多様であることに起因している.
 そこで本研究では,複雑な因果関係を把握できる構造方程式モデリング(SEM)を用いて,歴史的景観に対する価値観と歴史的景観喪失のリスク要因との関連性を検討し,その中でWTPがどのような位置づけにあるのかを整理し検討することを目的とする.歴史的景観に対する価値観や景観喪失に対するリスク認識の中にWTPを位置付けることでWTPの意識構造を把握し,古都の歴史的景観の継承に関わる価値や意義を明らかにできよう.
II 調査の概要
 本研究では,Yahoo!リサーチの登録モニター(20歳以上)に対するインターネット調査を利用した.公募モニター型のインターネット調査では,回収された標本が目標母集団となる日本の有権者を代表しないサンプリングバイアスが生じる可能性がある.そこで本調査では,登録モニターから,性別,年齢階級,居住地域を考慮して,3,945名(京都市内=698人,京都市外=3,247人)を標本抽出した.有効発信数は3,942であり,そのうち有効回答数は1,912(有効回答率48.5%)である.有効回答のうち,本研究では正常回答である1,752通の回答を分析対象とした.アンケート調査は,2007年2月8~13日にかけて実施した.
III 結果・考察
 本研究では,「人為的災害」,「自然災害」,「開発・社会」の各因子を含む「リスク要因」の因子と,「私的価値」,「公的価値」の各因子を含む「景観価値」の因子を用いて,WTPの構造方程式モデリングを行った.これら各因子は,リスク要因8変数と価値意識5変数それぞれに対する因子分析から得られた.また,観測変数として,京都市内在住か否かを表す「京都」と世帯年収を表す「所得」も準備した.
 初期の構造方程式モデルでは,「景観価値」が「リスク要因」に影響を与えるモデルを考え,パス係数が5%水準で有意とならなかったパスを順に削除した.その結果,最終的に歴史的景観復興に対するWTPの因果モデルの分析結果を得た.
 (1)「京都」や「所得」,「景観価値」から,「WTP」へのパス係数は,正の値を示した.このことは,経済的支払い能力や景観価値の認識が,WTPに正の影響を与えていることを意味する.また,京都市内在住者は市外在住者と比較してWTPが高く,歴史的景観に対する接触度合いがWTPを高めていると考えられる.
 (2)「景観価値」から「リスク要因」へのパス係数は正の値を示しており,歴史的景観の価値を高く認識する者ほど景観喪失に対するリスク認識が高いことがわかった.また,「所得」から「リスク要因」へのパス係数は負の値であった.これは,所得の低い者ほど景観喪失のリスク認識が高いことを意味しており,経済的なゆとりの低さがリスク認識を高めていると考えられる.
 (3)「京都」から「私的価値」へのパス係数は正の値であった.このことは,歴史的景観の「公的価値」認識が京都市内外の住民間で差が無い一方で,京都市内住民は市外住民と比較して歴史的景観の「私的価値」を高く認識していることを意味する.京都市内の住民は普段の生活で歴史的景観に接触する頻度が高く,京都市外の住民と比較して景観に対する「私的利用」を高く意識していると考えられる.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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