抄録
はじめに
日本島の河川の縦断面形は一次関数,ベキ関数,指数関数のいずれかで回帰できる(Ohomori,1991).また,氷期-間氷期の気候・海面変動に対応して河川の縦断面形は変化することが明らかにされてきた(Dury,1959,貝塚1969).しかし,氷期-間氷期サイクルのなかでの河床縦断面形の変化については不明な点が多い.本発表では,最終氷期の河床縦断面形の適合関数型を明らかにし、現在の型と比較するとともに、下流部における最終氷期の土砂移動について若干考察を加える.
方法
日本全国の主要な河川17つの本流を対象として,河床・段丘縦断面や沖積基底面のデータを文献資料から収集し,氷期の河床縦断面形(Last Glacial River Profile;以下LGRP)と現河床の縦断面形(Present River Profile;以下PRP)を作成した.そして,これらの河床縦断面形を関数回帰し,各河川の適合関数型と関数回帰時の相関係数を求めた.
結果および考察
LGRPは岩木川と荒川を除く全ての河川においてベキ関数または,一次関数で回帰される.一方,PRPになるとベキ関数型河川は減少し,指数関数型河川が増える傾向にある.このことは,LGRPとPRPの関数回帰時の相関係数にも表れている.LGRPのベキ回帰時の相関係数と指数回帰時の相関係数を比較すると,指数回帰時は0.67以上であるのに対し,ベキ回帰時の相関係数はすべて0.9以上と高い(図1a).一方,PRPではいずれの回帰時にも概ね0.8以上と比較的高い相関を示し,両者は二方向へ分離している(図1b).関数型の違いは河床縦断面形の曲率の違いを示しているので(Ohomori,1991),上述のLGRPからPRPにかけての関数型変化は河床縦断面形の曲率の減少を意味する.つまり,LGRPはPRPと比べてより直線的であったことがわかる.また,LGRPの現河口付近における縦断勾配は、PRPのそれより明らかに大きく、岩木川と荒川を除くと1‰を大きく越えている.現在の扇状地の末端部の河床勾配が1‰であること(Ohomori,1991)や,適合関数型の違いが河川作用の違いを示す(Ohmori,1997)ことを考えると,このことは,水理条件に変化がなかったとすれば、最終氷期の方が現在よりも下流まで砂礫を運搬することができた可能性を示している.