日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 422
会議情報

都市内大規模河川(ソウル市清渓川)の復元による暑熱環境改善に関する気候学的研究
*松本 太一ノ瀬 俊明白木 洋平安永 伸也片岡 久美原田 一平
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録


 都市内を流れる河川には、周辺の暑熱環境に対して冷却効果があるといわれている.著者らは都心の大規模河川空間復元がもたらす暑熱現象緩和効果の定量化を目的として、韓国・ソウル市における清渓川復元事業の前後にわたる暑熱環境の総合的なモニタリングを進めてきた(一ノ瀬ら,2006;Ichinose et al., 2006など)。黄海より約30km内陸に位置するソウル市内には、暖候季を中心に黄海より海風が進入しており、この場合西風成分が卓越する。また、観測対象地付近の復元河道の走向はほぼ東西である。成田ら(2004)などによれば、都市内の緑地や水体からその周辺へ冷気が供給される場合、一定以上の面積を有することが必要であると考えられるが、河道の幅がわずか50m前後の清渓川では、例えば南北風が卓越する場合、地表面付近の空気が緑地面や水面と接触する時間は短く、その冷却効果が河道から離れた場所にまで及ぶことを期待するのは困難と考えられる。よって、卓越風向が河道に沿った時にこそ、河道からの周辺地域への冷気の供給が期待できるのではないか、との仮説をたてた。これは成田(1992)の風洞実験による知見(成田・清田,2000)とも整合的である。CFD2000による数値シミュレーションからは、復元河道上を吹走する冷気が渦を巻きながら、河道に直交する街路へ南北同時に進入する様子が計算されている。
 以上の仮説を実証すべく、2006年8月6日~13日に風、気温などの観測を行った。観測期間中、晴天日には復元河道上で午後から夕刻にかけて海風と思しき西風が卓越した。海風が顕著であった8月13日夕刻の事例では、河道上のB地点(橋の上)で西風が強まるのと同期して、北側のM6地点(建物は平均3階程度)と南側のM4地点(同2階程度)ではそれぞれ南風、北風が強まり、とりわけM4地点ではそれと同期して気温が1℃程度低下している。このような現象は、M2地点(ソウルシネマ前:最も屋外人口密度が高い)では比較的不明瞭であり、清渓川路より1本北の東西道路(鐘路;ジョンノ)からと思われる北風も時折観測された。同時期に実施されたシャボン玉による移動観測の結果と照らし合わせると、清渓川の影響は南北とも河道より80m程度までは比較的明瞭であり、約140m離れたM2地点のあたりが反対から吹き込む風系との干渉地帯となっているものと考えられる。
 また、2004年の同時期に行った気温、水蒸気密度の観測データとの比較により、清渓川の復元工事前後の冷却効果検討を行った。その結果、特に清渓川の南側の地点で、海風(西風)が卓越する時間帯で、相対的な気温低下、水蒸気密度の上昇がみられた。

著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top