日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 507
会議情報

山形県天童市におけるラ・フランスの産地形成
*石原 大地今野 絵奈下田 未央高柳 長直増井 好男
著者情報
会議録・要旨集 フリー

詳細
抄録

1.問題意識と課題
 わが国の果樹農業をめぐる近年の情勢は大きく変化している。消費面では、食生活の多様化が進む中で、輸入品を中心とする果汁需要の増加はみられるが、生果需要は若年層を中心に減少している。生産面においては、樹園地の整備や作業の機械化が立ち遅れている中、中山間地域を中心に果樹農家の減少、担い手の高齢化、後継者不足等の問題が深刻化している。このような消費・生産の変化により、2004年の果実の国内自給率は40%と低下した。一方、消費者の健康・環境意識の高まりの中で、より環境や安全性に配慮した果実の生産・供給が求められている。以上のことから、果実の需要を安定させ、消費者ニーズに対応した高品質果実生産や、国際競争にも耐えうる足腰の強い果樹生産の育成が課題となっている。
 このように、多くの果樹の栽培面積が伸び悩み、あるいは減少しているが、生産が拡大している品目もみられる。その一つとして西洋なしがあげられる。西洋なしには、ラ・フランス、バートレット、オーロラ、ル・レクチェ、越さやかなど早生から晩生まで、特徴ある品種がある。2005年の西洋なし全国出荷量は28,400tであり、西洋なしの中でもラ・フランスは、出荷量の約70%を占めており、しかも栽培面積が増加傾向にあって、最も人気の高い品種といえる。
 そこで本研究では、果樹農業の構造再編が迫られる中でラ・フランスの産地形成の展開過程を解明し、産地のあり方について考察する。研究対象地域としては、山形県天童市をとりあげた。ラ・フランスの主要産地は山形県であり、全国出荷の約77%を占めている。また、山形県の中で天童市は、ラ・フランスの栽培面積、収穫量、出荷量がいずれも上位を占めている。2006年8月末に、JAてんどう、天童市役所、農家への聞き取り調査により、課題への接近を試みる。
2.産地形成の過程
 天童市は、山形盆地に位置し、昼夜間の気温の日較差があるので、果樹栽培に適しており、米と果樹が農業経営の中心であった。 しかし、米の生産調整政策が施行され、水稲からの品目転換を余儀なくされた。そこで、天童市ではラ・フランス生産が着目された。ラ・フランスは他の果樹と比較して栽培が容易であり、単価も高い。また、天童市はさくらんぼの日本で有数な産地であったが、ラ・フランスの栽培時期はさくらんぼとは栽培時期が異なることもあり、多くの農家が導入した。つまり、複合経営農家にとってラ・フランスは、最適な果樹である。
3.多様性を特徴とした産地
i).多品目複合経営
 天童市の農家は多様な品目の栽培を行なっている。米をはじめとして、さくらんぼ、りんご、ぶどう、ももなどを栽培している。多品目複合経営の利点として、労働力とリスクの分散があげられる。果樹栽培は1つの作物に対しての労働力量が少なく、多品目複合経営を行い、労働力の分散に努めている。
ii).栽培技術
 栽培技術は、剪定作業方法など各農家で異なる。ラ・フランスは糖度で価格が決定されるので、各農家が独自の栽培技術を保有している。使用する肥料においても、化学肥料から有機肥料、アミノ酸系肥料など多岐にわたる。また、接木においても、品種や回数は農家により異なる。このような栽培技術の多様性が、栽培技術の向上につながっていると考えられる。
iii).販売方法
 販売方法(ルート)が多様であることは、市場の拡大と、生産者の栽培意欲の向上につながると考えられる。調査農家の中には、スーパー大手のイオンと提携し販売を行なっている事例もある。また、直接販売を行なっている農家も多く存在した。販売方法が多様化していることに起因して、天童市のラ・フランス販売は、共販率が低いことも特徴の一つである。
4.範囲の経済と産地の課題
 産地の形成は、集積の利益追求の結果だと考えられてきた。できる限り生産品目をしぼるともに、規模の拡大による平均生産費の逓減を図ろうとしてきた。しかしながら、果樹の場合、投下資本の回収に時間がかかる上、永年性作物であるため、市場構造の変動に容易には対応できないという問題がある。そのことが、多様性を生じさせてきたともいえる。しかしながら、多額の費用を要したラ・フランスセンター(選果場)は、ラ・フランスしか利用できず、稼働率が著しく低い。日本農業の効率性をより高めるためには、範囲の経済の追求といったことも課題として求められている。
著者関連情報
© 2007 公益社団法人 日本地理学会
前の記事 次の記事
feedback
Top