抄録
「食」の安全性や「食」と「農」の乖離など,現代日本を取り巻く,農業や食料に関する問題は今や重要な課題である。このような状況の中で報告者は,環境保全型農業の一形態としても位置づけられている有機農業に注目し,「有機農業を取り巻く地域の状況がどうなっているのか」ということに問題意識を持っている。有機農業と地域との関わりを問う地理学的研究は,産業・産地形成・農産物流通の視点などからのアプローチが見られるが,現状の有機農業が生産量・額において,全農業に占める比重がごくわずかであるため,数も少なく,これまで十分に議論が深められてきたとはいえない状況にある。そこで報告者は,ある地域圏における有機農産物の流通の実態を,生産から消費までの流れを意識しつつ明らかにしたいという認識のもとに,研究を行っている。事例としては,地方都市の一例として広島市を取り上げており,「広島市における有機農産物の流通の実態を明らかにすること」を研究の目的としている。
調査は,聞き取り調査を中心に行っている。主な聞き取り内容は「広島市において販売または購入されている有機農産物の流通ルートおよび量」である。その際,対象となる農産物がどこで生産され,どのように流通して,消費者に届いているのかということを意識して調査を行っている。調査対象については,一般の市場流通のみに限らず,できるだけ様々なレベルの流通形態に関わる対象を含めて調査するよう努めた。広島市において,消費者が有機農産物を如何にして手に入れているのか,を念頭におきながら調査を進めている。
広島市における有機農産物流通には,多様な流通ルートやネットワークが存在している。これは一般の農産物の卸売市場経由率が約8割であるのに対し,有機農産物等の卸売市場経由率は著しく低いという,全国的な動向とも重なるが,広島市においても卸売市場経由の有機農産物の流通量はごくわずかに限られ,卸売市場経由以外の多様な流通ルートやネットワークがあるといえる。また,有機農産物の集荷圏は消費圏である広島市に近い傾向がある。有機農家が個人提携にて宅配等を行っているなどの場合はいうまでもないが,小売店等においても中四国・九州など西日本を中心とする集荷圏がみられた。これは収穫時期の地域差を利用し,全国の契約農家から専門流通業者のもとに集められて量販店へと出荷されるような形態に比べて,量が少なく比較的狭い範囲のネットワークが形成されているといえる。それから,地場野菜や減農薬野菜など全ての商品の安全・安心・低価格競争がある中で,消費者の有機農産物に対する認識や購買行動が不安定であり,小売店等の売る側が,苦戦を強いられている状況も確認された。このような状況も含め,有機農産物の絶対量の少なさという課題をどう克服していくかもこれからの重要な点であるといえる。