日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 519
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居住地域による保育ニーズの多様性
横浜市を事例として
*倉賀野 清子後藤 寛
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抄録

1.問題の所在
 共働き育児世帯にとって、育児支援の中心的な役割を担うのが保育所である。とりわけ、核家族化が進む都市部においてはこの傾向が強い。近年では、人々のライフスタイルが多様化するとともに、就業形態や就業時間・従業地等、働く上での選択肢も広がりつつあり、それに伴って保育に対しても様々なニーズが寄せられている。
 利用者の保育所選択にあたっては、保育所の立地や保育時間・受け入れ年齢等の条件が自分たちの生活スタイルと適合するかが、重要な決定要因となる。つまり、幼児を通わせられるような狭い地域において、保育需要数が単に保育所の定員として満たされているだけではなく、それぞれの利用者がどのような生活をしていて保育サービスに何を求めているか、というニーズまで満たさなければ、有効な育児支援として機能し得ないのである。
 神谷(1996)は、時間地理学の観点から保育所配置や保育時間等の問題点を明らかにした。また、若林(2006)は、保育所待機児童数を主な指標とし、東京大都市圏における保育サービスの需給バランスの地域差についての検討を行っている。宮澤(2005)では、認可保育所への時間的・空間的アクセス可能性の分析から、提供サービスの非柔軟性が、母親の生活を規定していることが指摘されている。しかしながら、保育所利用行動を決定する共働き育児世帯のライフスタイルといった、利用者側の視点での言及は不十分である。
 ライフスタイルを浮き彫りにするにあたっては、居住地域の分析が有効な指標となり得る。地価からは所得階層の推測、通勤アクセスや地元での就業機会の豊富さといった面からは、働き方の傾向性が見えてくると考えられる。一般的に、保育所は自宅に近い方が利便性が高いと言われているので、利用者はその地域に存在する複数の保育施設の中から、条件の合うところを選択することになる。その結果として、地域全体での需給関係を把握することが重要である。また、そもそもその地域では子ども達は就学するまでにどのような育児パス(年齢に応じた保育施設の利用)をたどるのか、という地域全体の背景をつかむことも必要であろう。
 そこで本研究では、居住地域特性から居住者のライフスタイルをイメージしつつ、それぞれの地域における保育所利用者のニーズを探るとともに、既存施設がどのようにニーズを吸収しているか、地域的差異を明らかにすることを目指す。

2.研究方法
 従来の保育サービスに関する議論においては、首都圏全体としての傾向を把握し、事例として東京特別区を扱ったものが多く見られる。しかしながら、保育所選択にあたっては、居住地だけでなく職場との関係も重要であり、近隣まで含めて検討する必要がある。本研究では、これまで具体的な事例としてほとんど取り上げられていない横浜市全域(18区)を対象とし、区ごとの動向の比較も試みた。横浜市は、東京都に近接していることもあって、都内への通勤者・横浜市中心部での従業者・郊外への通勤者等が混在しているため、様々なライフスタイルと保育サービス利用方、そして地域差の比較検討が可能と考えられる。また、待機児童解消を目的として準認可型の「横浜保育室」制度を全国に先駆けて導入しており、利用者にとっては幅広い保育施設の選択肢が与えられている。
 まずは、各区内における幼稚園・認可保育所・横浜保育室・認可外保育所の入園者数を調べ、就学前(0歳~5歳)の年齢ごとの子どもの動向を把握した。そこで似たようなパターンを描く区同士をグループ化した上で、保育ニーズの地域的差異を検討した。

3.考察
 横浜市における就学前の子どもは、全ての区で幼稚園入園者が保育施設(認可保育所・横浜保育室・認可外保育所)のそれを上回り、幼稚園志向が強いことが明らかとなった。
 保育施設においては、利用者の割合や利用施設の種類等で、地域による違いが認められた。これは、地域ごとの働き方や住み方といったライフスタイルと密接に関連していると考えられる。
 また、幼稚園と保育施設入園者の合計が、その区の就学前子ども人口を上回る地域も複数認められた。このことは、単に自宅近くの施設を利用しているのではなく、通勤先等の関係で居住区を超えた育児サービスの利用が行われていることを示唆すると思われ、保育サービス利用モデルの再考につながる現象と思われる。
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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