日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: 521
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一般化空間的自己相関分析
Toblerの地理学第一法則の再考
*貞広 幸雄
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抄録

 空間的自己相関は,地理学,特に計量地理学における最も基本的な概念の一つである.空間的自己相関を定量化する方法としては,Moran's Iや近年の局所的統計量,geostatisticsにおけるcovariogramとその派生形,点パターン分析におけるK関数などが提案され,広く地理学において用いられてきている.これらの手法は,それぞれ適した分析対象や目的,場面が異なり,あらゆる対象についてその分析手法が存在するわけではない.また反対に,複数の手法が適用可能な対象も存在し,そのような場合には各手法を比較して適切なものを選択する必要がある.
 このような状況を鑑み,本研究では,より広範な空間的自己相関の分析枠組み(但しモデルはここでは取り扱わない)を提案し,その実際の適用を行う.ここでは特に,手法の前提となる条件を整理し,それに従う枠組みを提示する.
 空間的自己相関を数理的に分析する手法は,一般的に,以下のような手順から成る.
1) 分析対象対の特定
2) 各分析対象対について,位置に関する類似性の評価
3) 各分析対象対について,性質に関する類似性の評価
4) 2)と3)の関係を評価する分析対象対の集合の特定
5) 4)について2)と3)の関係の評価
6) 4)の結果の集約
 例えばMoran's Iを用いて市区町村単位の人口データを分析する場合, 一般的には1)では全ての市区町村対を対象とし,Local Moran's Iでは所与の地点から一定距離内にある全ての市区町村対を対象とする.2)は重み行列という形で空間的近接性を表現し,3)は市区町村対の人口密度の積が類似性の高さを表す.4)は,全ての市区町村対が対象であり,それらについて2)と3)の積という形で5)の評価が行われる.最後に市区町村対についての和を取ることで6)が行われ,Moran's Iの値が求められる.
 covariogramの場合,1)と4)の分析対象対はある地域内の全ての地点における連続分布の値の対である.2)はユークリッド距離が,3)は連続分布の差の二乗が用いられ,5)については2)と3)のグラフプロットという形で表現する.6)については,全ての地点対について積分するほかに,地域ごとあるいは方向別の集約も行われる.
 上記6段階のうち,2)や3)については既に議論の蓄積があり,1)については局所的統計量において明示的に扱われつつある.また6)についても,既に様々な形での集約方法がある.これらの段階での具体的な手法は,いずれも異なる分析手法間で交換可能であり,ここに新たな分析手法の開発可能性を見いだすことができる.
 一方4)と5)については,未だ多くの議論が行われているとは言い難い.これらについてToblerによる地理学の第一法則の記述に基づいて考えてみると,4)については分析対象対同士の類似性が比較可能であること,5)については必ずしも間隔・比率尺度である必要はないことに気づく.前者は従来,あまり議論されてこなかった点であり,局所的統計量は自ずと条件を満たす可能性があるものの,一般的には注意を要する点である.一方後者は,類似性が順序尺度で表現できれば十分であり,性質の表現はこの条件さえ満たせば良いということを示している.これらをふまえ,本研究では4)について,各地点とそこから一定距離内にある他の全ての地点との対を対象とし,5)は地点ごとに類似性が正の相関を示す対の割合を指標として用いることを提案する.具体的な適用例は発表において示す.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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