日本地理学会発表要旨集
2007年度日本地理学会秋季学術大会
セッションID: P615
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河成段丘面の編年に基づく山形盆地西縁活断層帯南部の活動性評価
*中村 洋介
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抄録

 本研究では,山形盆地西縁断層帯における第四紀後期の活動性を算出することを目的に,活断層の良好な変位基準である河成段丘面の編年調査ならびに断面測量調査を実施した.河成段丘面の分類・対比は,空中写真(縮尺約1/40,000,および約1/20,000)の判読と段丘構成層および段丘被覆土壌層の現地調査に基づく.編年の基準となる火山灰は,自然露頭試料および掘削試料を洗浄した後に,顕微鏡で鉱物組成や火山ガラスの有無およびその形状を詳しく調べた.その後,火山ガラス及び重鉱物を立正大学地球環境科学部所有の温度変化型屈折率測定装置を用いて屈折率を測定し,広域火山灰の同定を行った.
 一般に山形盆地では,段丘構成層および被覆土壌層中に火山灰層を肉眼で認めることが非常に困難である.また,露頭の数も非常に限られて圃場整備によって地形が大幅に改変されていることから,本研究では被覆土壌層の採取をボーリング掘削により行った. 本研究では山形市柏倉にて2本(試料(1),(2)),同市長岡において1本(試料(3))の掘削調査を実施した.試料(1)の掘削は柏倉南部の河成段丘面(I面)上で実施した.I面は本地域で最も高位に位置する段丘面である.試料(1)は水成の砂層までの1.5mの掘削を実施した.試料(1)は上位より盛り土層,褐色ローム層,シルト層,ならびに砂層からなる.なお,試料中から火山灰層を肉眼で確認することは不可能であった. 試料(1)からは火山起源と考えられる鉱物の濃集層準が2層(深度30cm付近:AT,深度65cm付近:K-Tz)準検出された.
 試料(2)の掘削は柏倉北部の河成段丘面(II面)上で実施した.II面はI面より1段低い段丘面である.試料(2)も試料(1)と同様に水成の砂層までの1.5mの掘削を実施した.層相は上位より,盛り土,黒ボク層,褐色ローム層,シルト層,ならびに砂層からなる.試料(2)では試料(1)と同様に火山起源の鉱物が2層準(深度25cm付近:AT,深度60cm付近:K-Tz)検出された.ただし,試料(1)ではK-Tzが風成層(ローム層)から検出されたのに対し,試料(2)ではK-Tzは水成のシルト層中から確認された.
 試料(3)の掘削は長岡の河成段丘面(III面)上で実施した.III面は今回試料を採取した中では最低位の段丘面である.試料(3)では水成のシルト層までの1.0mの掘削を実施した.層相は上位より,盛り土,黒ボク層,褐色ローム層,シルト層,ならびに砂層からなり,深度25cm付近にATが確認された.
 これらの結果より,各段丘面の離水時期はそれぞれ,K-Tz降下直前(I面),K-Tz降下直後(II面),K-Tz降下以降AT降下以前(III面),すなわち10-11万年前(I面),8-9万年前(II面),5-6万年前(III面)であると考えられる.
 本研究では掘削調査後にI~III面の累積変位量を明らかにするための断面測量調査を実施した.各段丘面の累積変位量はそれぞれ約25m以上(I面),20m以上(II面),14m以上(III面)であり,段丘面の年代が古くなるほど変位が累積していることが判明した.ここで,累積変位量が「以上」となっているのは,本研究における断面総量では断層の両側で河成段丘面の形成年代が異なるためである.
 各段丘面の累積上下変位量をそれぞれの段丘面の形成年代で除したところ0.23-0.25mm/yr(I面),0.22-0.25mm/yr(II面), 0.23-0.28mm/yr(III面)の平均上下変位速度が算出された.また,各段丘面の累積変位量を産業技術総合研究所(2006)によって報告されている地震1回辺りの単位変位量(2~3m)で除すと,I面は8~12回以上,II面は7~10回以上,III面は5~7回以上,地震によって上下変位を被っていると考えられる.
 よって,山形盆地西縁断層帯南部における地震の再来間隔は8300年~13800年以下(I面),8000年~12900年(II面)以下,7100年~12000年(III面)以下であると見積もられる. なおこの値は,沖積面におけるトレンチ調査によって求められている地震の再来間隔(産業技術総合研究所,2006)とほぼ同等の値である.山形盆地西縁断層帯南部における地震の最新活動は4300年前~5000年前であると考えられていることから(産業技術総合研究所,2006),今回の調査で得られた中~長期的な平均変位速度を加味しても,山形盆地西縁断層帯南部を震源とする巨大地震が近い将来に発生する確率は極めて低いものと考えられる.
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© 2007 公益社団法人 日本地理学会
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